長編
□第二章『決意』
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劉輝にえらそうにいったものの、秀麗は後悔しそうになっていた。
(あー、ダメダメ! 後悔しないって決めたのに!!)
劉輝のことは、信じられる。秀麗のためにずっと待っていてくれたのだ。
けれど、もし――という思いがどうしても拭えない。
「おい、秀麗。上の空で仕事するんじゃない!」
清雅の厳しい声が飛んできた。
「わ、ごめん」
秀麗はハッと目の前の書翰に視線を落とす。今は、仕事中なのだ。
再び集中した秀麗に、清雅はつと目を細める。その視線はいつものように冷たく鋭く――だが少しだけ揺れて。
「何を……考えていた?」
「え?」
きょとんと顔を上げた秀麗に、清雅は不快そうな顔をした。
「仕事以外の、何を考えていたというんだ」
「ごめんって言ったじゃない! 怒んないでよ。悪かったから。反省するから!」
「ふん」
「なーんかセーガ君さー、知りたくてしょうがないっつーかんじー」
蘇芳ののーんとした言葉に、清雅は蘇芳をねめつけた。射殺されそうな視線に、蘇芳は首をすくめる。
(今のも、ダダ漏れ――なのか?)
……よくわからない。
「……上官が部下の上の空の理由を聞いて何が悪い」
「……悪くないッス」
「で? 何だ」
「……言えないわ。いくら上官でも、関係ないことは言わない。下手なこと言っていつ裏かかれるかわからないし」
一瞬、秀麗が思いつめた顔をしたのを、清雅は見逃さなかった。その理由はとても知りたかったが、そんな自分がおもしろくなくて、清雅はわざと倣岸に笑って見せた。
「ふん、少しはわかってきたみたいじゃないか。俺に感謝するんだな」
「半分感謝して、半分恨むわ」
「なんだその半分というのは! ……まあいい。仕事だ仕事。これ検挙して俺の手柄にするんだからな!」
「あんたに手柄渡してたまるもんですか! 負けないから!」
秀麗と清雅の視線に火花が散った。
(こわー)
何度も見慣れたはずの火花が蘇芳には怖かった。楊修が言った好敵手というのは、ちょっと曲がっているような気もするが、本当かもしれない。
(俺にはぜってー無理だけど)
書翰に集中し出す秀麗と清雅を見て、蘇芳はぼんやりと思った。