長編

□第五章『茶会』
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 絳攸は約束通り来てくれた。
「絳攸様!!」
 秀麗は絳攸が持ってきた大量の本を半分もって貴妃室の奥へと案内する。
「主上は昨夜来たのか」
「はい。何も初日からこなくたって……」
「ああ、そのことなら、どの貴妃の室にも隔てなく毎日順番に回るらしい」
「そうなんですか。ならよかった。でもまさか、二人で一緒に寝たりはしませんよね……」
 その言葉に絳攸は固まった。
「まさか、おまえ……」
 驚愕の視線に、秀麗は真っ赤になってブンブン頭を振った。
「ちっ……違いますよ! ただの添い寝です!! 私と一緒じゃなきゃ眠れないなんて、頓珍漢な子どもみたいなこと言うから……。誓って何もありませんでしたから!!」
「……ワガママなガキだな」
 絳攸の口からめずらしく出たトゲのある言葉に、秀麗は少し驚いた。
「本当に」
 そしてにこっと笑う。
「今日はどのようなことをお教えくださるんですか?」
 その途端、絳攸の表情が引き締まった。秀麗の尊敬する師の顔に。
「おまえはあまり好まないかもしれんが、家関係のことだ。後宮にいる分には知っていた方が何かと便利だろう」
「……珀明にも言われました。少しは学べと」
「あいつは俺にも言ってきたぞ。というか、俺は別にいいと思っていたが、珀明に押されてな……」
「はあ、絳攸様が。……って珀明、私がここにいること知ってるんですか!?」
「知っている。まあ、おまえのことはいつでも心配しているし、あれも碧家直系だからな」
「……夏梨さんの弟なんですよね、確か」
 初めて聞いたときは、開いた口がふさがらなかった。今でも時々疑いたくなる。
「全然似てないわ。まあでも、二人ともまっすぐかしらね……」
「俺もそのくらいしか共通点は見つけられなかったな。……まったくおまえは、妙なのばかりに好かれるな」
 秀麗は反論できなかった。龍蓮はもちろんだが、夏梨もなかなかにすごい。
「碧家からきた貴妃は、二人の従姉妹に当たるらしい。直系筋だな。会ったか?」
「挨拶に来られたんで会いましたけど。貴妃の出自は伏せてあるんじゃありませんか?」
「そんなのは建前だ。紅家が本気になればすぐに調べられる。もっとも、この話は珀明から聞いたんだ。……なんかすごい御仁らしい。詳しくは言われなかったが、多分絶対迷惑をかけるから、先に謝っておいてほしいと言われた」
「………………多分大丈夫です。人の厄介事には慣れているほうなので」
「確かにな」
 絳攸は苦笑をもらした。
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