中編

□第一章
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 もう、ダメだと思った。決断せねばならない時はすぐそこまで来ている。
 秀麗は遠く内宮に思いを馳せる。過去に一度だけ妃嬪を迎えた後宮には、今は誰もいない。その貴妃が後宮を下がってから、王は誰一人娶らない。
 ――ずっとその貴妃だけを待って。
 だが、それももう終わりだ。仙洞省をはじめとする大官たちは痺れを切らし始めている。二十五にもなって妃の一人も持たないことが王の責務怠慢であることは事実だ。
「劉輝……」
 呟きは吐息となってそっともれた。
 もし、秀麗が健康な体であれば、秀麗は折れてしまっていたかもしれない。
 囁きはとても甘美で――官吏になるという思いと同じくらい強い想いが自分の中にあることに、秀麗は気づいていた。
(でも、ダメ。私じゃダメなの)
 固く瞼を閉じて、ごめんなさい、と心の中で何度も唱える。
 身を切るように辛い言葉を、秀麗は言わなければならない。逃げていた自分に、向き合わなければならない。
 今、決断を――。
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