中編
□第四章
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この頃官吏たちの態度が変わった気がする、と秀麗は思っていた。
好意的すぎるのだ。
官吏になってもう随分たつ。女だからと色眼鏡を使われることはなく、それなりに評価されていると自負している。女だからといまだ蔑視している者たちもいたが、あからさまではなくなった。
ところが最近、尊敬や畏怖、親しみをもって接していた人々それぞれが、おもねるようになった。上位の高官たちでさえ、秀麗の顔色をうかがうようだ。
彼らの中には下心を感じない人もいたが、不気味なほどにニコニコ笑う。
「こんにちは、紅官吏」
出会った中年の男も、そのうちの一人だ。官位は秀麗より少し上、特に親しいわけではないが、仲良くしてもらっている。
「こんにちは。楽しそうですね。何かいいことありましたか?」
「何を言いますか。いいことがあったのはあなたのほうでしょうに」
「ええ? 何のことでしょう。私はいつもと変わりがありませんが……」
キョトンとした秀麗に、男もキョトンとした。
が、一瞬のちに大口を開けて豪快に笑いだした。
「そうですか、そうですか。確かに内密にしておかねばならぬ話かもしれませんね。そうそう口にできる話でもありますまい。ですが私は存じておりますよ。心から祝ぎの言葉を」
「あ、あの……」
「では」
何の話かサッパリだ。疑問符ばかりの秀麗にかまわず、男は会ったとき以上に幸せそうな顔で去っていってしまった。