短編

□月蝕
1ページ/1ページ

「月が食べたい?」
 絳攸は奇妙なものを聞いたというように眉をひそめた。その様子に、秀麗はふわりと笑う。
「私も昔はかわいいことを思ったものでしょう? 今はこんなんですけど」
「……」
 その沈黙が何を表しているのか、秀麗は知らない。案の定、秀麗は膨れた。
「わかってますよ、真面目に反応なさらなくても。月を食べたいなんて、こんなに欲張りなことはないですよね。私はずっと欲張りで……静蘭や父様にずっと迷惑をかけてきました」
 秀麗は月を見上げる。真円に輝く月に、秀麗は何を思っているのか。
 それを想像して、秀麗はにわかに静蘭に嫉妬した。
「秀麗、おまえは確かに欲張りかもしれない。欲したものは多く、高嶺にある」
 急に語気を荒くした絳攸に、秀麗は落ち込んだ。絳攸は慌てたが、言ったことに間違いはない。
「でも、」
 秀麗は顔を上げた。その瞳の奥の光に、絳攸はハッとする。
「欲しいんです」
 きっぱりと告げた秀麗に、絳攸はかすかに笑んだ。
「月を食べるか」
 秀麗は何かを思うように目を閉じる。
「あの頃私は父様と静蘭と三人で食べたいと思っていました。いちばんおいしいところを母様にお供えして。でも今は」
 秀麗は力強く笑う。
「みんな、一緒です」
 秀麗も、絳攸も、同じ月を見ている。他にも多くの仲間たちが。黎深しかいなかったはずなのに、いつの間にか、絳攸の周りにはたくさんいた。
「みんん、一緒です」
 みんな同じ月を見ている。ぶつかる壁は多々あれど、月はきっと手に入る。


***あとがき***
李姫、李姫、とネタを探しているときに思いついた話。
「月が食べたい」のたった一言から頑張りました。
10万hit御礼フリーのアンケートお礼文に使用させていただきました。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ