短編
□薔薇の約束
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聖なる夜というに相応しい夜。
月はない。満天の星空の光を、積もった雪が照り返す。
そっと吐く息も、誰にも知られずに雪景色にとけてゆく――
ひとりの少女が庭に足を下ろして二胡を弾いていた。
その音は、聖夜にふさわしく哀しく澄んだ音。
薔薇姫の唄、それは童謡のはずなのに。
燕青は秀麗の後ろに立って二胡を聴いていた。
なぜこんなにものがなしいのだろう、と燕青は思う。
これは子どものための曲だ。燕青も小さな頃、何度も何度も聞かせてもらった。もういない母親に。
とても優しい曲だったと記憶している。
秀麗も、子どもたちに聞かせるときは優しい音を出すのだろう。
だが今のこの哀しく美しい響きが、きっと秀麗の中にある本当の音。
様々な思いを巡らせているうちに、曲が終わった。
「……燕青」
驚いた。気配を抑えていたはずなのに。
「あれ、ばれてた?」
「ばればれよ、もう」
溜め息をつきながらも相手をいつくしむ声。だがいつもとどこか違った。
「隣、座るぜ?」
燕青は隣に腰を下ろしてちらりと秀麗を見下ろした。秀麗は目を閉じていて、心中はわからない。
秀麗はしばらく黙っていた。真冬の夜、だいぶ寒いが、今この時間が大切なのだ、ということは痛いほどわかる。