贈物

□庭院に寄す
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 秀麗が庭院の手入れをしていると、妙に懐かしい声が聞こえた。
「──秀麗」
 顔を上げて見つけた顔に秀麗は顔をほころばせた。
「絳攸様!!」
 溢れるような笑みに、普段はめったに動かない絳攸の顔もやわらかくなる。
「庭院の手入れか?」
 ええ、と秀麗は庭院を見やった。
「まだ花のつく木は桜と李しかありませんけどね。緑ばかりの庭院でも、きれいな庭院であってほしいですし。もっとも」
 秀麗は生け垣に近づいて、その小さな葉を愛おしむように撫でた。
「官吏になるまでは、あまりできなかったんですけど」
 それ以上は言わない。どうしてできなかったか、絳攸は知っているから。絳攸は、そうか、と言って秀麗の頭を撫でた。
「成長したな」
「え?」
 突然の言葉に秀麗は絳攸を振り仰いだ。その瞳がいつになく優しくて、ふいにどきりとする。
「もう過去の自分と向き合えるようになったか」
 ああ、と秀麗は笑んだ。
「成長じゃないですよ。絳攸様や劉輝が東奔西走してくださったおかげで、あんな悲惨な過去を二度と起こらせないためにする努力をできるようになったんですから。感謝してもしきれません」
「だから茶州でも頑張れたんだな」
「ええ、本当に」
「それが成長したということだ」
 絳攸に褒めてもらうことが、秀麗には一番嬉しい。目顔で感謝の意を伝えて、秀麗はゆっくり歩き始めた。絳攸はその後を続く。
「こうしてね、庭院を歩くと、まだまだ手入れの行き届いていないところもいっぱい見つかって。私はまだまだ未熟だなって思い知らされることも多いんですけど、ひとつひとつ自分の手で直していくことで、少しは自分も成長できるかなって思うんです。まあ、結局は自己満足にすぎないんですけど」
 秀麗は少し笑う。
「でも前は何もできなかった。庭院を眺めてただけだった。変えたい、もうこんな傷は見たくないって泣きながら、それでも動くことができなかったんです」
 でも、と秀麗は絳攸を見上げた。
「茶州では、私と同じように傷ついて泣くばかりの少女を助けることができました。あのときの喜びというか、感動は忘れられません。
 この庭院みたいに、私がひとつひとつ為すことで、国が変わっていけばいいなと思います。夢が目標になったから、私はこの庭院の手入れができるようになったんです。それを成長とおっしゃるのなら、それは劉輝や絳攸様のおかげです。本当にありがとうございます」
 秀麗は深々と頭を下げた。少しの沈黙の後、噛み含めるような絳攸の声が頭上から聞こえた。
「それでも、俺や主上を動かしたのはおまえだ。少なくとも俺は、おまえじゃなかったら動かなかった。少しは自分の努力を褒めてやったっていいんだぞ」
 いつになく熱く褒めてくれる絳攸を、秀麗はポカンと見上げた。
「……なんだ」
 憮然とする絳攸に、秀麗はにっこり笑った。
「絳攸様にそう言ってもらえるのが一番嬉しいです。誰よりも」
 絳攸は詰まった。やがて照れ隠しのようにそっぽを向く。
「……今日だけだぞ」
「はい」

***あとがき***
お待たせいたしました。
6000hit 美樹様リクエスト。秀麗×絳攸とのリクエストでしたが、果たしてご要望にお応えできていますでしょうか。秀麗+絳攸の気もしています。もっと甘いほうがいいとお思いでしたら、書き直します。
*この作品は美樹様のみお持ち帰りいただけます。
 

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