頂物
□万有引力の法則
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世の中の物事は、全て『必然』の積み重ねだと思ってる。
だから、俺が姫さんと出会ったことは、偶然なんかじゃないんだ。
それはきっと−−…
万有引力の法則
秀麗は今日も遅くまで灯りをつけている。どうやら今夜も睡眠を削る予定らしい。
燕青は庭院から様子を伺い、はぁ、と嘆息する。確かに勉強熱心、仕事熱心なのはいい。寧ろ上司として誇りに思う。が、しかし、誰も睡眠を削れと言った覚えはない。
「−−…茶州でお灸据えたこと、さては忘れたか〜?」
大切に想えばこそ、時にはきつく言わねばならない時もある。燕青が再びお説教をしようと足を向けたその時、秀麗が窓から手を振っているのが見えた。
「−ん?なんか姫さん、顔赤くね…?」
まさか風邪でもひいたか!?−−燕青は慌てて秀麗の室へと向かった。
「−−…姫さん、入るぞ〜?」
扉を叩いて中を覗くと、意外にも書簡や本の類は散らばっていなかった。あんな短時間で片付けられるとは思えない。じゃあ何で今夜は夜更かしを…?
「…ごめんね、燕青」
自分を見上げる秀麗は確かにいつもより顔が赤い。
心配に思った燕青は、どれどれ?と秀麗の額に自分の額をくっつけた。
「−−え、燕青!?」
「−ん〜、熱はないな?あ、ごめんごめん、熱計ろうと思ってつい、な」
驚く秀麗に、笑って弁解する。少しは狡い気持ちもあったのだが、それは笑顔で上手く隠す。一方、秀麗は茹蛸もかくや、という程に真っ赤になっていた。
「……あのね、いきなりそんなことしないでよ…」
「ごめんごめん」
自分の動揺を知ってか知らずか、燕青はいつものようにニカッと笑っている。
(−−…何であなたを呼んだか、全く分かってないでしょ…)
そう、この浪燕青という男に、自分は惚れてしまったのだ。
きっかけなんてなかった。ただ、いつの間にか、ずっと側に居てくれないと嫌だと思うようになった。
まるで子供の我が儘のような気持ち。でも、人生まるごとくれた彼に、そんな想いを伝えていいのかどうか、今宵はそれで悩んでいたのだ。
そして、ふと庭院を見たら、燕青の姿が目に映ったのだ。
−−…見た瞬間、まるで、伝えろと神様に言われたようで、思わず燕青を呼んでしまった。