頂物

□指先の、
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(※新刊黎明後捏造してます。)



藍州から帰り、色々とドタバタ過ごして――何時の間にかあんなに怖かった夏も駆け回る日々で終わり、もう庭からは綺麗な虫の声が聴こえる。
肌に感じる空気は段々と冷えてきて、もう少ししたら雪も観れるかもしれない。
そんな殊を考えながら、一つ小さな溜め息を吐いて、秀麗は仕事を進めていた筆を置いた。

きっと集中力が切れたのだ。
お茶を飲んで気分転換をしようと思い歩き出すと、もう月も高いと云うのに明かりがついた室があった。
二人分のお茶をいれて、自分の室には向かわずに光を追った。
室だけは余りあるこの邸の中で、一番解りやすい場所にある、その室の扉を軽く叩く。

「絳攸様、まだ起きていらっしゃるのですか?」

知っていて、敢えて返事を待つ。
すると程無くして中へ促す声がきこえた。

あの日、秀麗は絳攸が自分の従兄弟にあたる人間だと知り、そして叔父である黎深が紅州に戻り、百合姫も毎日のように貴陽中を飛び回っている今、あの邸は絳攸一人には大き過ぎた。
それならばと邵可が提案したのをきっかけに、絳攸が邵可邸に迎え入れられたのだった。

「お前こそ、まだ起きていたのか?」
「えぇ。宜しければお茶をご一緒して下さいませんか?」

盆に乗せられた二つの茶碗。
最初から自分の分も用意してくれていたのだと気付いた絳攸は、快く頷いた。

乱雑に散らかった机の上を簡単に片付けて、椅子を秀麗に譲る。
絳攸は寝台に座り、休憩と云う言葉を今思い出したように一息吐いた。

何かに熱中すると周りが観えなくなるのは、二人共同じだった。
茶州に居た頃、秀麗は自分の室を観て邵可に似ていると感じたが、もしかしたら黎深も同じなのだろうかとぼんやり思う。

仕事や勉強をしている時の秀麗と絳攸の机は、同じように物が散らばっていた。
悠舜の机は何時でも綺麗だったし、清雅の机は散らかっているように観えて物が多いだけで正確に置かれているし、燕青は本人にしか場所が解らない位に散らかっていた。

「何を笑ってるんだ。」

知らない内に、秀麗はクスクスと笑っていたらしい。
少し眉間に皺を寄せてこちらを観る仕草は、知り合った頃から変わらない。
否と首を振り、お茶を差し出す。
湯気が茶葉の香りを運び、鼻孔をくすぐった。

きっと、何も変わっていないのだ。そう気付いて、秀麗は嬉しくなった。
心の底に根付く思いは、何も変わらない。
目標があって、走ってきて、今はまだ道のりの途中でしかない。
大きな目標は明確でも、その過程が解らなかったのは、最初からだ。

「ねぇ、絳攸様。」

呼び掛けた声は、驚く程に柔らかくて優しい。
まるで、愛しく想う気持ちが総て声に詰められたように。
何時でも、前を歩いていた人。そしてきっと、これからも歩き続ける人。


「ちょっと駆け足になっちゃうかもしれませんけど、一緒に歩きましょうね。実際の道も、心の道も、隣に居ますから。」
「…もう迷わん。」
「ふふふ、私が迷ったら、絳攸様が案内して下さいね。今迄みたいに。」


まだ終わりじゃない。
始まったばかりでもない。
どちらかが止まったなら、手を引いて歩けば良い。
時折休憩を挟んで、気が向いたら走って。
そうしてずっと、目指す場所迄、二人で。

触れ合った指先が、熱を孕んで溶けていく。
―…歯車はもう、止まらない。



**************

お待たせしましたー!
劉秀か李姫で、とのリクエストでしたので、李姫にしました。
そめこサンのサイトの七夕話を読んだら、黎明大丈夫そうだったので、つい(笑
一緒に暮らしてたら良いなぁと願望を詰め込んでみました!
きっと燕青も居候してると思いますが。
コッソリ劉秀も書けたら書きたいですー。

リクエスト有難う御座いました!
そめこサンのみお持ち帰り可能デス++



=御礼=
ありがとうございました!
うわー、また李姫熱が上昇しそう…
お任せしてよかったです。

指先は触れあうか触れあわないかの距離…
触れあったとしても師弟の関係を離れられなくて。
ふいに触れたそれは、思いのほか熱を持っていて、驚いて…

少しの間激しく照れ合うけれど、二人はほほ笑みあって愛を確かめ合うといいですね!

素敵なキリリク小説をありがとうございました!

麗穏様。
サイト:夢色遊戯
 

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