長編

□第二章『決意』
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 秀麗は、無理やり暇を作って吏部へと向かった。何日か待っていれば絳攸は邵可邸にやってくるが、そうのんびりもしていられないし、なにより宣言をしていないとまた言葉を覆したくなるからだった。
 吏部に入ると、下っ端の珀明は走り回っていた。
「珀明? ちょっといい?」
 珀明は例のごとくやつれていたが、秀麗を見ると猛然と駆けてきた。
「おまえ――!!!」
「だっ大丈夫!?」
「大丈夫、じゃない!!」
 珀明は秀麗の前でピタッと止まると、ドーンと胸を張った。
「ったく、何やってんだ! 冗官で何やらよくわからん調べ物をして、任官もされずに!! やっと拾ってもらったと思ったら、何だ!!」
 御史台、と言おうとして、珀明は口をつぐんだ。さすがにヤバい。
(鉄壁の理性、鉄壁の理性……)
 心の中で呪文のように唱えると、珀明はキッと秀麗をにらんだ。
「おまえ、あそこがどういう所かわかっているんだろうな!」
「な、何のこと?」
「ふざけるな! ここは吏部だぞ! 誰がどこにいるかくらい、すぐにわかる!!」
 本当は、秀麗が心配で、珀明の官位では見てはいけない資料を盗み見たのだが。
 それは、言わないでおく。
 ぷんぷん怒ってくれるのが嬉しくて、秀麗は微笑んだ。
「ありがとう。でも大丈夫。頑張って見せるわ。……いろいろとね。せっかく官吏になれたんだもの。やめないわ、決して」
 それは、自分自身への誓い。
 強い調子の言葉に、珀明は見開いた。
「……で? 吏部に、何の用だ」
「絳攸様に、非公式に取り次いでほしいの」
「絳攸様に? 侍郎だぞ。いくらおまえが親しいといっても――」
「急ぎなの。許可はもらってるから」
「……わかった」
 珀明は秀麗を信じている。だから、何も訊かずに走った。
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