長編

□第五章『茶会』
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「でも、調べたらわかるってことは、私のこともすぐバレちゃうんじゃ……」
 秀麗は青くなった。
 せっかく「庶出のタナボタ貴妃」を演じてるのに。いや、事実なんだけど。
「大丈夫だ。紅家は厳戒態勢を敷いてるし、紅貴妃が秀麗だとわからないよう偽装工作もしているしな。碧家なんかは、七家の三席直系ということを知らしめるために、情報を緩めている。白家もだな。おまえの身元については、珀明のようにおまえを直接知っている奴じゃなきゃ考えも及ばないはずだ。
 ただ、紅官吏と紅貴妃が同一人物だと知れると、おまえが直系長姫だということは割れる。茶州で大立ち回りしたし、紅本家も動いたからな。紅官吏が紅家直系長姫だということは、高官や七家当主は皆知っていると思った方がいい。今のところ、紅官吏と紅貴妃が同一人物だとは気づかれていないと思うが」
「……では、蕾の花簪は、やめておいたほうがいいですか」
 絳攸は揺れる花簪を見た。
 きっと秀麗は毎日あの簪ひとつで身を飾っているのだろう。
 それが、秀麗の答え。
 秀麗の目を見てもまったく揺れていなくて、絳攸は苦笑する。
「俺が何と言っても、おまえは自分の考えを変えんだろう」
「ええ? そんなことないですよ」
「本当か? だが俺もそれでいいと思う。逆に、官吏としての志を見せつけてやれ」
「はい」
 秀麗は喜びと安堵に笑った。
「……珀明が気づいているということは、碧貴妃様も知っていると考えた方がいいですね」
「いや、大丈夫だ」
 秀麗はキョトンとした。
「え、どうしてですか?」
「言ったらすごいことになるから言っていないらしい。それにあれは、おまえが官吏に残ることを望んでいるからな」
「……はい」
『おまえは僕より上で及第したんだ。退官は許さない』
 いつでもどこでも高飛車でふんぞり返っているけれど、どれほどあの言葉に励まされたことか。
「俺も、おまえを待っている。きっと帰って来い」
「はい」
 瞳の奥に決意の光を秘めて、秀麗は言い切った。
 絳攸は満足げに笑った。
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