長編

□第六章『告白』
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 邵可はその重く前向きな沈黙に苦笑して続けた。
「正しくは、二代目『黒狼』、というべきなのかな。
『風の狼』にとって、縹家は天敵でした。向こうは表立って動きませんから、こちらも裏の我々が対処しなければならない。ですが向こうは異能揃いで、さすがに我々も苦戦しました。あらゆる任務をこなしてきましたが、すべての犠牲者のうち、そのほとんどが対縹家戦で命を落としました。私が『黒狼』を継いだのも、先代『黒狼』が縹家に殺されたからです」
 誰もが呆然としているが、彼らはだからといって話が理解できない状態というわけではない。そんな無能であれば、ここには集めなかった。
 邵可は黎深を見る。邵可を思うあまりに憎悪一色に身を染めて、それでも邵可のためにこらえている。
 一番信頼する愛しい弟に、邵可は微笑んだ。
「その頃、縹家当主縹璃桜が囲っていた美しい女性がいました。彼女は縹家の象徴的存在で、昔は異能もありましたし、こう呼ばれていました。薔薇姫――と」
「薔薇姫!?」
 劉輝と秀麗が声をあげ、目を合わせる。二人にとっても馴染み深い名前だ。
「そう。私は彼女を助けに行ったわけではなく、殺しに行ったのだけどね。一目で惚れ込んで、命令に逆らって連れて帰った」
「それが、薔君奥方と?」
 静蘭の言葉に邵可は頷く。
「縹璃桜にとって、薔薇姫は特別だったからね。何年もの間刺客を送られ続けたし。やっと口説き落として夫婦になれた時は少し落ち着いていたのですが……。今、妻そっくりに育った秀麗を見て、もう一度手を伸ばし始めたのです。
 ですから、秀麗には何の責任もありません。私の行動が今の状況を生み出した。秀麗もね、自分のせいなんて思わないでほしい」
 秀麗は答えられなかった。自分のせいでないというのが素直に頷けないというのもあったが、それよりも、今の話が衝撃的すぎた。
「でも父様、私、母様と全然似てないわ……」
 なんとか口に出すことができたのは、そんな的外れな言葉だった。
 邵可は目元に愛しさをにじませて言う。
「似ているよ。私が愛した妻も、璃桜が愛した薔薇姫も、目にみえない、すばらしいものを持っていた。君はその美点をそのまま受け継いでいる。君は自分で気づいていないかもしれないけれど」
 秀麗以外にはそれで十分だった。薔薇姫がどんな女人か、ほぼ察せられた。
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