中編
□第四章
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「何だったのかしら……?」
官吏の去った方向を見て秀麗が呟くと、思いもかけない方向から声がした。
「バカめ。御史台にいたことがあるくせに、そんなこともわからにのか」
「――清雅」
背後から聞こえた声に、秀麗の眦が瞬時につり上がる。振り返って、フンと笑ってやった。
「久しぶりね、清雅。こんなところを歩いてるなんて、よっぽど仕事がもらえないのね」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。俺は噂も知らない無能な誰かさんとは違うんでな」
「噂?」
喰いついた秀麗に清雅はニヤリと笑った。
「だからバカだというんだ。官吏たちの態度がこの頃変わったことくらい気づいてるだろう。その理由、知りたくないのか?」
馬鹿にした笑いに腹が立つ。
「知りたいって言ったら教えてくれるの? はん、サドセーガがそんなことするはずないじゃない。アンタに借りつくるなら、他の人に聞くからいいわ」
「借り、ね」
呟くように笑って、清雅は秀麗の耳元に囁いた。
「教えてやるよ。結婚だよ、お前と王サマの、な」
「けっ…こん……?」
思いがけない話に、秀麗は大きく目を見開き固まった。
(だって、でも、どうして? 劉輝には子供が産めないと伝えたのに…)
秀麗の反応に気を良くしたように、清雅は口の端をニィッと引き上げる。
「たまんねぇな、その顔」
そう言った清雅は、人の悪い笑顔で秀麗の顔を眺めわたし去って行った。
「あ、あんたが勝手に言ったことなんだから、借りひとつなんて思わないからね!」
ハッとしてそれだけを叫んだ秀麗に、清雅は振り返らぬままひらひらと片手を振った。
「くーっ、腹が立つ! どうしてあんな人を小馬鹿にした態度がとれるのかしら! でも絶対に借りなんて思わないんだから!」
しばらく地団駄を踏んでいた秀麗だったが、ふと冷静になる。
結婚……劉輝――この国の王との。
愛している。これ以上ないくらいに。だが、秀麗が横に立つことはできないのだ。
それは叶わなかった未来。
夢の世界。