現代短編

□封印
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『――ナナコへ。
 ナナコの名前を引き当てたとき、やった、と思った。本当はそんなこと思っちゃいけないし、誰の名前を引いてもタイムカプセルを作れるけど、私にとって、ナナコは特別だったから。
 六人。その中に私の名前があることがうれしかったし、ナナコの名前が一緒にあることもうれしかった。……ふふ、知ってた? 『さっちゃんはかっこよくていいなー』ってナナコが言ったとき、『そうでしょ?』って笑ってた裏で、私はナナコのことがうらやましかった。ちょっと無理をしただけでガタがくる私のポンコツな体と比べてうらやましがってたわけじゃないよ。私がうらやましかったのは、ナナコが他人も自分もちゃんと見つめようと頑張ってたから。『大丈夫だよ』って手を握ってもらえると、とっても静かな気持ちになれたのに、私は意地っ張りでちょっとだけ悔しく思ってしまったりしてたから。……気づいたのはずいぶんと遅くて、自分の鈍感さに嫌になるけど。
 極めつけは、ガラスの破片。急に窓ガラスが割れたあのとき、ナナコが守ってくれなかったら、私はどうなってたんだろうね。ナナコが私の楯になってくれたから、私は今笑っていられるの。
 大量の血――私だったら絶対死んでいたから。
 もう、傷は治ったかな? ごめん、また変なこときいたかも。私が言えることじゃないのに。
『ごめんね、ごめんね』ってナナコは言ったけど、私には何のことかわからなかった。守ってくれたのに、どうして謝るの、って。でも、ナナコは知っていたんだね、私が血が嫌いだったこと。重い病気のせいで、そうなっていたこと。それに気づいたとき、ああ、ナナコはすごいな、って本当に本当に思った。
 あのあと私の容態が悪くなって……謝りたいのは私のほうだよ。ナナコのせいじゃないのに、ナナコは優しすぎるから、自分のせいにしたんだよね。私も、『馬鹿!』って怒れるほどに元気だったらよかったんだけど。
 私が謝ってたのはね、もしかしたらナナコは傷のことだけだと思っていたかもしれないけど、本当はそういう意味もあったんだ。
 ごめん。そしてありがとう。

 二十年後、ナナコがこれを読んでくれているとき、私はどこにいるのかな。もしかしたら一緒にいられないかもしれないけど。まだ病院にいるのなら、医師(せんせい)に怒られてもまた抜け出していくからね。
 それで、『読んだよ』って言ってくれる? 私からは切り出せそうにないけど、もう一度謝っておきたいから。
 ね? お願い。

 大好きな奈々子へ。祥子」

 奈々子は顔を上げた。みんなが――ともに子ども時代を過ごしたかけがえのない人たちが、優しく、奈々子を見守ってくれていた。
 そして、祥子もどこかから。
 読んだよ、と奈々子は声に出さずに呟いた。声は聞こえなかった。ただ、あたたかい風が、静かに優しく吹いた。
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