コラボ

□二人だけの約束
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−−その日の夜……

秀麗は室にて書物を読んでいた。
湯浴みを終えた後であり、髪は邪魔にならない程度に纏めているだけだ。

「…やっぱり暑いわ、眠るまで結わえようかしら…」


何気なく呟いたその時−−


「…駄目。下ろしてて」

柔らかい声と共に優しい抱擁が秀麗を包んだ。


「…若様…」
「あのね秀麗、もう若様って呼ぶのは止めてくれないかい?」
「…ごめんなさい…」
「私達、もう主従関係じゃないだろう?立派な恋人なんだから」
「……だって、まだ慣れなくって…」


赤くなって俯く秀麗がかわいらしく、朔洵は唇を耳元に寄せた。

「…名前で呼んで?」


耳元で柔らかい声がする。
擽るようで抱きしめるような声が心地いい。
秀麗はその心地よさに身を任せ、名を呼んだ。


「−−…朔洵…」

その響きに朔洵はうっとりと目を細める。


「やっぱり君に呼んで貰うと嬉しいね。じゃあもう一つだけ、お願いを聞いてくれるかな?」
「何かしら?」

朔洵は艶やかな黒髪に指を絡ませながら、願いを口にした。

「あのね、何度もお願いしてるけど、私と居る時は髪を下ろしてて欲しいな」
「だってそれは−−」
「"蕾"、挿せないから?」
「−−…それは違うわ」


秀麗は朔洵の手に自分の手を重ねる。

「…嫌というか、暑いのよ。ただでさえ今年は暑いから…」
「それだけ?」
「それだけよ。言っておくけど"蕾"は全く関係ないから」


秀麗の清々しいまでの言い切りように、自分の勝手な思い込みが霧散してゆく−−結局、自分であることないことを想像し、勝手に嫉妬していただけだったと分かった。


こんな自分が嫉妬という感情を抱く日が来るとは思わなかった。

「やっぱり、君を好きになって良かったよ」
「−−はぁ?何をいきなり−−」


先程の"蕾"の会話と全く脈絡のない朔洵の言葉に、秀麗はただただ首を捻る。
その動作に合わせ、朔洵の掌で艶髪がサラサラ音を立てて流れてゆく……


「…やっぱり、下ろした方が綺麗だね」
「−−なっ…!」



サラリと甘い言葉を吐けば、相変わらず固まる恋人が愛しくて仕方ない。
朔洵はそのまま耳元で囁いた。



「…私のお願いは、ずっと守ってね?私だけの秀麗…」


返事はないが、コクリと頷き是を伝える秀麗に、朔洵は益々笑みを深めながら、秀麗を抱きしめ続けたのであった。





二人だけの約束

それだけで私はしあわせ






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