短編

□ちんけな饅頭@
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 本気になれば、悠舜や鳳珠よりも仕事の速い黎深だ。だいぶ仕事も減った頃、悠舜がつと目を細めた。
「少し……空気が澱んでいますね」
 鳳珠が無言で立ち上がり、窓に向かう。ありがとうございます、と言おうとしたが、そのまえに鳳珠の声が聞こえた。
「何だ、これ?」
「どうしたのですか?」
 悠舜の言葉に、鳳珠は柳眉を怪訝にひそめて入ってきた。美しい線を描く手の指に持たれていた物に悠舜は目を細め、黎深は盛大に顔をしかめた。
「これが外に置かれていた」
「饅頭……ですか」
「何だと思う?」
「嫌がらせに決まっている!!」
「黎深、誰かからの差し入れかもしれませんよ?」
「だから嫌がらせというんだ! なんだこのちんけな饅頭は!! 差し入れなら差し入れらしくもっといいもの持って来い!!」
「……」
 傲慢な紅家当主の言葉に沈黙した二人だったが、勢いよく饅頭にかぶりついた黎深には更に絶句した。
「……鳳珠、せっかくですし、お茶にしましょうか」
「……そうだな」
 鳳珠がお茶の用意をして、悠舜は適当に机を片付けた。
 黎深は何もしない。この数日間で諦めた。
「ふん、見た目も悪いが、味も悪いな」
 ぶつぶつと呟きながら、次々と頬張る。
「おい、私のとるな!!」
「おまえが食べるのが遅いんだ!!」
「仕方ありませんね、私の半分分けてあげますから……」
 そうして夜は明けてゆく。
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