短編

□豆腐日和
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 豆腐屋では、張おばさんがいつものように笑顔を振りまいて元気に商売をしていた。
「こんにちは、張おばさん」
「おや秀れ──…」
 元気に振り返った張おばさんだが、固まってしまって言葉が後に続かない。
(無理もないわ……)
 内心では深々とため息をついて、秀麗はぎこちない笑みを浮かべた。
「この人のことは気にしないでください。それより張おばさん、お豆腐二丁ください」
 張おばさんは我に返ったようだ。
「あ、ああ。木綿? 絹ごし? それとももっと荒いのにするかい?」
「どれがいい、龍蓮?」
 龍蓮は形のよい顎に手を当ててしばらく思案していたが、やがて優しい笑みを浮かべて秀麗を見下ろす。
「任せよう。うまいものを作ってくれ」
「わかったわ。じゃ、張おばさん、木綿豆腐を」
 秀麗と龍蓮のやりとりの一部始終を見ていた張おばさんは、つながれた手を見て、得たりとばかりに笑んだ。
「なるほどね、秀麗ちゃん、よかったね」
「え、何がですか?」
「そんなに仲良くしておいて、隠さなくたっていいんだよ。秀麗ちゃんみたいないい娘が嫁き遅れるなんてないと思ってたけど、官吏になって、心配でねぇ」
(ええ……!?)
「でもよかったねえ。ちょっと変わった御仁みたいだけど、かなりいい身なりしてるし、どっかのご子息なんだろ?」
(……藍家直系のね。だけど……)
「おまけに秀麗ちゃんとは仲良さそうだし、大切にしてるってよく伝わってきて。顔もたいした美男じゃないか」
(それは認めるけど、でもっ!!)
「張おばさん、なんか誤解してません……?」
「え? 秀麗ちゃんのイイ人なんだろ? なかなかの人見つけたじゃないか」
 違います!! もと断言したかったのに、なんと、龍蓮が遮ってくれた。
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