頂物
□万有引力の法則
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そんな秀麗の心中など知る由もない燕青は、ただ首を捻るばかりだ。
「−−…で姫さん、何で俺を呼んだの?」
勉強や仕事をしていないのなら、多少遅いのには目をつむろう。燕青はそう思い、当初の疑問を口にした。
しかし、いつもなら打てば響くような会話をする秀麗が、黙りこくっている。
「お〜い、姫さ〜−−」
「−−…き」
余りにも小さい声で、聞き取れなかった燕青は、もう一度聞いてみた。
「ごめん、聞き取れなかったから、もっかい言って?」
すると真っ赤になった秀麗はキッと燕青を見上げ、半分ヤケで叫んだ。
「だから、燕青のこと、好きって言ってんでしょ!?」
−−−訪れた沈黙の中、燕青の手から滑り落ちた棍が、カラーンと音を立てて転がった……
「−−…えっと、姫さん?」
「何っ?」
「いや、そう興奮しないでさ…さっきの言葉だけどさ、好きってどーゆー意味で…?」
「−−!」
怖ず怖ずと尋ねる燕青に、秀麗はビクッとした。やっぱり言うんじゃなかった、迷惑よね、あなたのことは人間として好きなのよオホホ!−−秀麗の頭の中で、ぐるぐると後悔だけが駆け巡る。
そんな秀麗を、燕青は壊れ物を扱うように、そっと抱きしめた。
「−え、燕青!?」
「俺さ、官吏としての姫さんの側に居よう、って人生まるごとあげちまったけど、ちょっと付けたしてもいい?」
「…どういう意味…?」
戸惑う秀麗の耳元で、燕青は優しく囁いた。
「これからは、官吏として、一人の男として、姫さんの一番近くに居る。約束する」
−−だからさ、姫さんの人生も、まるっと俺に頂戴?
一拍の後、満面の笑みで応えた秀麗を、少し強く抱きしめる。
欲しいと想った存在が、今、自分の腕の中にある幸せ−−
きっと、秀麗となら幸せな未来を築けるはず、そう思わずにはいられない高揚感。
燕青は、秀麗の柔らかい頬に、軽く唇を落としつつ誓った。
「ぜってー幸せにするから」
−−俺達が会ったのは必然。出会うべくして出会った。だから、想い合うのも必然なわけで。
心と心が引き合ってるの、無視出来ねぇし?
−−−この後、どこからか干將が飛来したのは言うまでもない……
<終>