txt

□食欲の秋 恋愛の秋
1ページ/1ページ

食欲の秋。

「ブーン太、はよ帰ろ。はらぺこじゃー。」
仁王とは帰る度に買い食いをする。

「おー、ちょっと待って。」
急いで着替えを終えて、部室を出る。部室には、鍵当番である柳と真田が残っているのみで、何となく早く帰れ的な雰囲気だ。
俺の勘では、あの二人は多分できている。もしくは、もうすぐ付き合い始めるようなびっみょーな時期真っ最中。

「仁王、行こーぜ。じゃあな、真田 柳」

「あぁ、気を付けて帰るんだぞ。」
「また明日な。」

微笑んで見送ってくれる柳と、相も変わらず厳い(いや、真面目な…)顔で見送ってくれる真田に手をふって部室を後にする。


「なー、仁王っ。あの二人って出来てると思う?」
「出来てるも何も、だいぶ前から付き合ってるじゃろうに。」
「えー!まじかよ!?」
「うっそー」
「うわ、むかつく」

いつものように軽いペテンに騙されながら、学校から駅までの道を二人で歩く。

「でさ、どう思うんだよ二人のこと。」
「心配せんでも、もうすぐくっつくじゃろ。」
「そっ、かー」


「なあ、どうなるんだろうな。」
「何が?」
「今の状況」

お互いに意識しているのに、どっちかが告白しなくちゃいけなくて。だいたい、告白しなくちゃ付き合ってることにならないのが意味不明だ。


「きっと変わらんよ」
「え?」
「付き合う前も後も、ただ好きだってこと。」

「…。」


わ、なんだ、今。

なんか、かっこいい。
気障な台詞のくせに。
仁王のくせに。


「ちょ、何か言ってくれんと恥ずかしいんやけど…」
「お前なんか恥ずかしがってればいいんだよ」
「ブン太酷いのう」

精一杯普通な振りをして、どきりと動揺した心をごまかす。

「今日は何を食べよっかなー。」
「わ、いきなりやねぇ」
「秋っぽいのがいいよなー。」
「無視?」
「月見バーガーがいい!」
「…はいはい」

落ち葉をガサガサ踏みながら、黄色や赤の上を豪快に歩く。

そこであることを思いつく。

「…やっぱ、今日は家直行にしよーぜ!」
「あら、めずらし」

「だって、今は食い気よりお前な気分だから…、さ。」
「は、」


脳裏に浮かぶのは真田と柳の姿。
きっと仁王は俺の気持ちに気付いてる。そして、俺も仁王の気持ちに気付いてる。

真田と柳のことを微妙な時期だと言ったけど、俺等だって微妙な時期真っ最中だ。

「付き合う」ということに違和感を感じていたけど、仁王がいう「付き合う」は悪くない。かもしれない。

ただ、好きだ。
それでいいなら。


「仁王」
「…ブン太」
「うっそー」
「え、」

「食べ物よりお前な気分なときなんてあるわけないだろ。」


してやったり。
仁王もたまには騙される側になればいいんだ。

実際、食物よりも仁王な気分なんて結構あったりするけど、それは秘密。


「なーんじゃ、俺はブン太な気分だったのにー。」
「はいはい」
「…ブン太酷いぜよ」
「ははっ!おもしれー!」

本当に少ししょんぼりしてる仁王が何だか愛しく感じる。いつも飄々としてるのに、こんな表情もするんだ、なんて思ったりして。
何となく得した気分。

「!」

「ブンちゃん?」
「何」
「この手は何、」
「やだ?」
「や、じゃないけど」
「じゃあ、いいじゃん。」

いつもなら手なんか繋がない。人前でなんて尚更だ。むしろ、仁王がやってきたら怒ってしまうくらい。


だけど、今は。

「何か買って仁王ん家行こーぜ。」
「そうやね。」


幸せそうな仁王の暖かい手の温もりが、少しだけ俺をおかしくさせた、それだけ。

付き合う。今なら、

「仁王」
「ん?」

言える気がしたけど、

「やっぱ、何でもない。」





まだ、言うのは先でいいかな。

END











この後に、「なんじゃ、気になるのう」「教えて」「教えて」ってうるさい仁王にブン太は「何でもねーって言ってんだろ!」と少し怒って、ちょっとケンカになりそう。結局、仁王が何かを慢るで解決します。
こんな感じの付き合う前ってもどかしいけど甘酸っぱくて好き。先でいいかな、なーんて言ってますが何だかんだ言って一歩踏み出すのが恐いだけなのです。お互いにね。では。

2007/10/20 咲良


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ