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□ここからが俺達
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勝敗のコールには大きな違和感があった。

「―ウォンバイ青学、越前」

そこにあるはずの王者の名前はなかった。そこにあるはずの幸村の名前はなかった。そこにあるはずの輝かしい光景はなかった。

幸村が、負けた…?


俺はまだ信じられなくて、体は微動だにしなくて、だけど目の前に影が落ちた。見上げるとブン太。
「いつまでそこにいるんだよ、行くぞ」
言い終わるなり俺の手を引いて歩き出す。
動かないと思っていた体はすんなり動いて、手を引くブン太を追い越す勢いでベンチへと急いだ。
「ちょ、にお、待てよっ」
早くしなければ幸村がベンチに戻ってきてしまう。俺たちの部長が。




「はぁ…、」
ベンチに戻ってきたときには、まだ幸村はコート内にいた。空を見上げ、対戦相手を見つめ、ラケットを握り締め、緑のコートを踏みしめて、ただその光景を目に焼き付けるかのように、そこに立っていた。
その姿は、神の子と称された人間としては相応しくない、ただ一人の少年だった。
たったそれだけのことに、涙が込み上げてきた。いや、「それだけ」のことではなかった。これが一番俺の見たかった姿だったのかもしれない。
負けることの許されない王者としてのあらゆる錘から解放された姿。


「みんな…、」
ベンチへと戻ってきた、幸村をみんなで囲んで笑顔を交わした。
「おかえり」も「お疲れ様」もなく、俺たちは幸村を見つめていた。その視線には、責めるなんてものは微塵もなく、寧ろ今の幸村に感謝をするような、そんな眼差しだった。

「…楽しかった、よ」

幸村が言った言葉が、俺たちの得るべきものだったのかもしれない。
勝利することに意味を持ち楽しさを見いだしていた俺たちのテニスは、これから変わっていくのだろうか。
心から純粋に楽しむテニスへと。


今までのテニスに悔いはない。俺の青春そのものだったと、恥ずかしいことも素直に思える。
だけど、「楽しかった」と少し涙を浮かべて言った仲間の言葉が、心の奥へと突き刺さった。

「幸村、ありがとう」

俺は、やっとそれだけ絞りだすように言って顔をそらした。



本当はまだ、実感も湧いていない。でもきっと些細な事に王者でないことを実感していかなくてはならない状況になるのだと思う。

だけど、心から言えるのは、


テニスが大好きだということだけだ。


ここからが俺達。
この仲間と共に。

END






幸村、本当に本当にお疲れ様!!!
そしてありがとう!!


仁王の幸村に対する気持ちは難しいけれど、何か大きなものがあると思います。


とにかく、立海ありがとう!
テニスの王子様ありがとう!!


2008/03/04 咲良


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