年が明けた瞬間に目の前にいるのが自分でありたいとか、一番最初に話したり触れたりするのが自分でありたいとか、そんなことをかんがえている自分は女々しくてすごく嫌いだ。 だけどさ、やっぱり好きだから。 「だからって、悩みすぎだろぃ」 一人つぶやいてため息。 俺、まじきもい。ただ、仁王に電話をかけて「今から会おうぜ?」だとか「一緒に年越ししない?」とかって言えばいいだけの話なのに。ああ、らしくない。まじきもい。 携帯の電話帳のニを出して仁王に電話する一歩手前まで行く。そこまでは何度でもいく。なのにその画面から全く動けなくて、むしろその画面のままでいたら何かの拍子で間違って通話ボタンを押しちゃうんじゃないかってこわくなって結局待ち受け画面に戻る。その繰り返し。てか何だよ、何かの拍子って。押しちゃえるんならそれでいいじゃん。いや、でも、それじゃ心の準備が。 もう、何回繰り返したのかな。また一歩手前まで行く。通話ボタンを押せば仁王に電話がかかる。一度電話してしまえば、言いたいことなんてすらすらと言えてしまう自信があるのに、なかなかボタンを押せない。情けないったらありゃしない。 テレビの向こう側では年越しライブだとか、お笑い番組、定番の紅白歌合戦で盛り上がっているというのに、俺のテンションは下がる一方だ。いつからこんな女々しくなってしまったのか。いや、きっと、仁王を好きになったときからなんだけどさ。まじあいつ呪いたい。 だけど、仁王と過ごす年越しの瞬間を諦められなくて、だって中学生最後の年越しだし、来年はこんなチャンスないかもしれないし(仁王に彼女ができてしまうかもしれないから)、高校にあがればクラスだって離れて今みたいにしょっちゅう顔合わせられなくなったりして、色んな出会いがあるから仁王に彼女ができる可能性だって格段にあがるわけで、っていうかあいつ来るもの拒まずだし、テニスしてるときとかかっこよくてやばいし、ミステリアスな雰囲気とか醸し出しててなんていうか色っぽいし、かと思ったら悪戯好きですこし子どもっぽく笑ったりするのが可愛いし、人に無頓着なイメージなのに意外にも気配り上手で優しかったりするからモテちゃうし…あああ考えてたらやっぱり今年しかないって思えてきた!じゃあ、電話しろよって思うのに、最後の最後で勇気が出ない。 なんなんだ、これ。 つーか、何で仁王からかけてきてくれないのかな。誘ってくれてもよくない?一応俺はあいつにとって仲のいい友達に入ると思うし、誘われてもおかしくないって思うんだけど。なんて相手に任せているから進展っていうものが全く見られないんだ。 ああ、堂々巡り。 『年越しまであと30分です!』 テレビから聞こえたテンションの高い声がまた俺のテンションを下げる。仁王の家まで急いでも20分はかかる。最低でも10分以内には連絡しなくては仁王に会えない。 いい加減、電話しよう。そう思った瞬間に電話がなった。 「わぁあっ!」 携帯の画面には仁王というニ文字が並んでいた。すかさず通話ボタンを押す。何度も押そうとしては押せなかったくせに。 「もしもし」 『もしもし、俺俺!ちょっと事業に失敗してもうて急に金が必要になってもうたんよ!今日中に百万振込まんと…』 「…今どき、俺俺詐欺かよぃ」 『はは、バレた?』 「バレた?じゃねえよ。全くお前は最後の最後のまで」 『やって詐欺師やもん』 「もんとかいうなキモい」 うそだよ。もん、とか可愛いよ。俺もう末期だ。 『ブンちゃん最後の最後までひどいのう』 「はいはい。で、どうしたんだよぃ?」 どうしたんだよ?とかいって。俺はずるい。自分の言って欲しい言葉、自分が言いたくても言えない言葉を相手が言ってくれるんじゃないかって勝手に期待して、言わせようとしているだけだから。ずるいっていうか臆病者っていうのかな。 『ん?今年最後にブン太の声でも聞いておこうかと思っての』 なんだよ、それ。そんなん嬉しいに決まってるじゃんか。ばか。 だけど、それって年明ける前に電話をきって別々なところで年越しするってこと? 「変なの。そんなんいつでも聞けるだろい。」 だけどそんなこと聞けるはずもなくて、また心にもないこと言ってしまう。なにが電話さえかけてしまえば言いたいことすらすらと言えてしまう自信だよ。そんなん無理じゃん。 『やけど、今聞きたいんやもん』 「そ、そうかよ」 あああ、もう!何でそんなこと言うんだよ!ドキドキするだろバカ!仁王のやつ絶対誰にでもこんなこと言ってやがるんだ。これだからモテ男は困る。ちっくしょう、嬉しいじゃねえかよ!あー、悔しい。ばか仁王。あほ仁王。タラシ仁王。好き。 そんなことを考えていると電話の向こう側が騒ついているのに気付く。あれ? 「てか、お前今どこにいんの?」 仁王が家にいないということが気になってきいてみると、仁王の声が嬉しそうになる。 『お、よくぞきいてくれましたー』 「?」 『今から初詣行くんよ』 「は…、初詣!?」 『何、そんな驚くことじゃなかろ』 ははは初詣って、一人で行ったりしないよな普通。まさか彼女と!?いやいやいや、ないないない。だって一昨日の部活ん時にいないって言ってたもん。どーせなら恋人と一緒に年越したいもんぜよ。とか言ってたもん。だったら俺が一緒にいてやるのに!って心のそこから思ったんだもん、間違いない。初詣、ってそんな。 「だってずるいだろい!だ、誰と行くんだよ…?」 『んー、ひ・み・つ』 秘密!?あ、あやしすぎる。折角こっちが勇気だしてきいてみたっていうのに…。ああ、もうどうにでもなれ! 「もしかして彼女だったりして〜…」 『んー、彼女ではないぜよ』 「…ではない、ってなんだよ」 『何、ブン太気になるん?』 「ばっ、べっ、べつに、そーゆーわけじゃないけど!」 うそだよ!気になるよ!気になるって言えよ俺! 『じゃあ、ええじゃろ』 「え!?あ、うん、まぁ」 もう気になるって言えない。天才的な俺でもさすがにもう無理。やっぱ教えてなんて恥ずかしすぎる。なんでこんななんだろう、俺。 『あ、じゃあ、そろそろ待ち合わせ場所着くから電話きるな』 「え、」 『ん?』 「いや、あの、」 『どしたん?』 「…よいお年を」 『はは、ブン太もな。じゃあ』 そう言って電話は切れた。プープープーといかにも通話が終了しましたとでもいうような嫌味な音が耳から全身へ駆け巡っていく。 『待ち合わせ場所』だなんて生々しい単語を思い出して泣きそうになる。嬉しそうになった声を思い出して泣きそうになる。『声が聞きたかった』だなんていう甘い言葉を思い出して泣きそうになる。 なんだよ、泣きそうになるどころか泣いてんじゃん俺。最悪だ。 『2009年まであと10分となりました!』 テレビからまたテンションの高いが聞こえた。あと10分。もうそんなのどうでもいい。もう絶対仁王とは一緒に年越しなんかできないんだし。親も弟達も寝ちゃったし(まじ、寝るとかありえねえ)、一人で寂しく泣きながら年越しとか、俺可哀想だな。 「ていうか、みじめ…すぎる、だろぃ」 呟くとさらにみじめになって涙が溢れてくる。なんで仁王いないんだよ。寂しいよ。 そのとき、突然携帯が鳴った。 ディスプレイには仁王のニ文字。 「な、に…?」 動揺を隠せないまま電話にでる。あ、やばい絶対鼻声。 「もしもし?」 できるだけ鼻声を隠してそう言うと仁王はなんとも不思議なことをいいだす。 『あ、もしもしブン太?遅いんやけど。急いでくれんと』 「は?」 『ほら、早く!とりあえず家出て!今!』 「え、何、」 『いいから早く!』 「え、あ、うん…!」 わけもわからないまま、言われた通り家を出る。なに、わかんないわかんない。仁王何言ってんの。 急いで家を出ると、目の前にはあり得ない光景があった。な、んで。 「なんでここに仁王がいるんだよ…」 仁王は通話中になっていた電話をきって、ククッと笑った。 「ブン太、鼻声。それに涙目」 「!」 「…可愛い」 「え、」 その瞬間、俺は仁王に抱きしめられていた。なにが起きているんだろう。や、何がって抱きしめられているんだけど。そうじゃなくて、え、なに、わかんない。 「そんな寒いかっこで外出たら風邪ひいてまうよ」 「だっ…て、仁王が急げって言ったから」 「ふふ、そうやね」 耳元から聞こえる仁王の声はさっきの電話のように嬉しそうだ。 「お前、初詣は?」 「ん?行くよ?」 「行くよって、待ち合わせしてんじゃないのかよ」 「うん。だから来たんやし」 「え?」 だから、来たって…。 「さっき、誰と行くんってきいたよな?」 「あ、うん」 「で、彼女ではない、って言ったやろ?」 「うん」 「彼女ではなくて、好きな人と行くって言うつもりだったんよ」 「…」 「ブン太のせいで言えんかったけど」 なぁ、それってさ、俺が考えてる通りでいいの?でも、じゃないと、今抱き締められている意味とか嬉しそうな声とかいくつもの甘い言葉とか、つじつまが合わないんだよ。 なぁ、仁王。 俺の寒そうなかっこよりも仁王のほうがよっぽど風邪をひきそうだ。こんな寒い中、俺んちまで歩いてきたんだろうから。耳が赤くて冷たそう。 でも、腕の中はあったかい。 「初詣行こう、ブン太」 「…バカ詐欺師」 あーあ、また騙された。 だけど、そんなとこまで好きで好きでしょうがない。 「でも、好き」 「うん、俺も好き」 最悪な年越しになりそうだったのに、一気に最高の年越しになった。 仁王の腕の中で迎える新年。 「あけましておめでと」 「今年もシクヨロ」 初詣に行ったら、お願いしなくちゃ行けないことが増えてしまった。 仁王には絶対にいわないけど。 (来年も仁王と一緒に…) END 仁王が好きでしょうがない盲目ブン太。一文がとんでもなく長い箇所があって、私もびっくり(笑)私の書くブン太はいつも仁王に騙されている気がするなぁ。とにもかくにも、皆様とニオブンにとってよい一年になりますように。 2009/1/3 咲良 |