アンジェリーク

□順風
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オスカーは不機嫌であった。
アンジェリークと(その他大勢で)宇宙を救う旅。

試験中はことごとく自分の邪魔をしてきたレイチェルはいない。
これはかなりの好機だと思っていたのに――。



「!、お嬢ちゃん!!」

「え…っきゃあ!」

「お嬢ちゃ…」

「アンジェリーク!!」


ふっと自分の横をすりぬける影。
それは素早い剣捌きでモンスターを切り裂くとアンジェリークの前に立った。
………アリオスだ。
オスカーの不機嫌の原因はまさしくこの男。


「アリオス、ありがとう」

「全く…お前はいつまで経ってもとろいままだな」

「う、ごめんね…」


「………………………………………」


これだから、この男は…。
アンジェリークもアンジェリークで彼には心を許しているように見える。
勿論それは言葉遣いによるものも大きいのだが。
どちらにしろ気分の良いものではない。


「お嬢ちゃん…」

「あ、オスカー様」


呼べばアンジェリークは可愛らしい笑顔で振り向く。ああ、隣の付属品さえなければ…。
その付属品はというと、不敵な、まるで勝者とでもいうような笑みをに浮かべている。


「…何だ。何か言いたげだな」

「いや別に何もないぜ?」


アリオスはそのままオスカーに向かって歩き出した。
そのすれ違い様、何かを手に握らされた。
何事かと手を開いて中を見ると…。


順風のトルテ。



アイテム
【順風のトルテ】―じゅんぷうのとるて―
効果…素早さの増加





「―――〜〜…っっ!!!」

オスカーはぶるぶると肩を震わせた。
――あの野郎…斬る!!



「あの…オスカー様?」

「いや、何でもない。何でもないぜ…」


そうですか、と首を傾げるアンジェリーク。
その腕に小さな擦り傷があるのを見つけた。


「お嬢ちゃん」

「あ、はい…、わっ!?」


オスカーはアンジェリークの腕を引いて、傷口をまじまじと見る。アンジェリークは初めて傷に気がついたのか、小さく「あ」と声を出した。


「いけないな。君の柔肌に傷がつくなんて…」


唇を傷に寄せた。
ぴくりと反応するアンジェリークの愛らしいこと。


「オ、オスカー様っ…」

「動かないでくれお嬢ちゃん。おまじないだ…」


――キスを、落とす。

するとアンジェリークの顔はみるみる内に真っ赤になって、オスカーが顔を上げたのと同時に彼女は動揺して後ずさった。


「お嬢ちゃん?」

「っ、あの、あっありがとうございます!!」


そのまま脱兎の如くアンジェリークは逃げた。
その慌てようが可愛くて仕方なくて、オスカーはくっくと笑うのを止められなかった。


――アリオスが同じことをしても、今の反応を返しただろうか。
それは予想できない。
強敵として立ちはだかる彼。けれど負ける気などはさらさらない。


「逃げる小兎は、俺が捕まえてみせるさ」


呟いた言葉は、誰に届くこともなかったけれど。
それは確かにオスカーにとっての決意表明であった。




「…とりあえず、敵からの塩は有り難く受け取っておくか」


順風のトルテは、その後オスカーが美味しく食べたそうだ。


END
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