アンジェリーク

□結局、貴方も私も
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さらさらと、まるで水が流れるように筆がキャンバスの上を走る。

それを見つめて、アンジェリークは目を細めた。


庭園の裏庭。その一角。
彼女は息抜きにここに来ることが多いのだが、先日から彼…セイランの姿を頻繁に見かけるようになった。
どうやら絵を描いているようなのだ。
ひっそりと近くの茂みを隔てた場所にお茶の準備をして。彼を時折視界に入れる。最近のアンジェリークの日課になってしまっていた。

今日もまた、彼を見つめる。
我ながらなんて恥ずかしいことをしているんだと思うが、自分が声をかければ気まぐれな彼はどこかへ行ってしまいそうだから。


「あ、」


ちゅん、と小さな鳴き声が聞こえたと思ったら、肩に小鳥がとまっていた。
驚いて身じろぎしそうになるが、小鳥があまりにかわいらしく小首を傾げていたのでそれはすんでの所でやめる。


「……貴方も、セイラン様を見てるの?」


問えば、小首は丸い目をくりくりさせて再び小首を傾げる。
その愛らしさにアンジェリークは思わず笑みを零してしまう。

そして次に振り向いた時――セイランの姿は消えていた。



「――…あ、いない…」


小さく、肩を落とす。
小鳥は慰めるようにちゅんちゅんと鳴いて、そして飛んだ。


彼がいなくなる度に落胆してしまう。
やっぱり次に会ったら声をかけてみようか、なんて思っていたら。


「―――のぞき見かい。女王候補さん」

「きゃ!?」


突然、ひそりと耳元で囁かれてアンジェリークは肩をびくりと跳ねさせた。
その驚き様に微かに笑ったのは他でもない、先程そこにいたはずのセイランだった。


「セ、セイラン様!いつの間に」

「さっき。君が小鳥と戯れてる間にさ」


彼の登場を予想していなかったアンジェリークはあわあわと慌てる。
立派なお茶器はあれど、敷いているのは簡易のピクニックシート一枚。
一体何をしているのかとセイランでなくとも思うだろう。

……というか。


「え、のぞき見って…」


呟いたアンジェリークにセイランはさも可笑しそうに笑った。彼特有の笑みだ。


「ま、まさか……気付いてたんですかっ!!?」


顔を真っ赤にさせたアンジェリークに、セイランは堪えられないといった様子で遂に噴き出した。


「くっ…あはは!気付いてなかったとでも?相変わらず面白い子だな」

「せ、セイラン様…!」


恐縮してしまったアンジェリークに、何を思ったのかセイランはおもむろに持っていたキャンバスを広げてみせた。

アンジェリークは目を見開く。

目の錯覚でなければ、それは。


「―――え、?」

「どう。僕は気に入ってるんだけど」



それは、小鳥と戯れる自分、だったから。








(おんなじことをしていたのね)




END
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お互いこっそり見てたっていう。
 

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