TOA(novel)

□美しいあなた、汚すのをお許しください
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大事に育ててきたのだ。
年の離れた弟だから、勝手が分からないのも仕方がないと目を瞑りながらも、大事に。
しかしときどき起こる、この衝動は。
大事な、弟。
幼く無邪気で、母にも俺にも甘えたがりで、父に叱られると泣いてすがりついてきて、俺を最も好いていると言ってきて。
可愛い。
可愛くて仕方なくて。
可愛すぎて困ってしまって。
意地悪したくなった。
好きな子ほどイジメたい男の気持ちが分かった。
泣いてる姿を見たいのだ。
涙を見せてくれないか。

 * * *

弟のルークは幼い故に人肌が恋しいらしい。
よく母の膝にのっているし、俺にだっこをせがむ。
今日も今日とて中庭で遊んでいたルークが俺を見つけ、全速力で走ってきた。
嬉しそうにお兄ちゃんと言いながら足に抱きつく弟。
またこの感覚だ。
弟に甘えられると、途端に起こる発作のようなもの。
胸の奥底に渦巻く、どろりとした破壊的な感情。
ルーク、お前が純粋で可愛いのが悪いのだ。
そう理由付けて、後の自分の行動を弁解しておき、抱きつくルークをドンッと突き放した。
ペタリと尻をついた本人は何が起こったのか把握出来ず、瞼をぱちぱちさせている。
数秒経って、やっと頭が追い付いてきたのか「お兄ちゃん、なんで」と聞き取れないくらい小さく呟いた。それに俺はふんと鼻を鳴らし言った。
「汚い。触るな」
簡潔で最低の言葉だ。
でもしょうがないじゃないか。
ルークが泣くのは、父に叱られた時と転んで擦り剥いた時だから。
それ以外見たことがなくて。
俺は泣かせたことが一度もない。
だから、俺相手に泣いてくれるのか、様々なことを試そうと思ったのだ。
なのに……
「うっ…ふぇ……」
ルークはすぐに泣いてしまった。
なんだ。
案外簡単だな。
つまらない。
そう思って俺はその場を後にした。

 * * *

夕食時になってもルークが来ないの。
母に困ったように言われ、家の中を探し出した。
家の外に出た様子はないとすると…。
俺には心当たりがあった。
ルークはきっとあそこにいるだろう。
その推測は、扉を開けて確定した。
ルークは風呂場にいて、体を洗っていた。
大方、俺が汚いと言ったから体を綺麗にしているのだろう。
単純な考えだ。
ルークは扉の近くにいた俺に気付き、弱々しい声で言った。
「ルーク、綺麗になった?」
もう何十回と洗ったのか、白い肌が所々赤くなっていて、痛々しいルーク。
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