向こう岸の物語(ツバサシリーズ物)


□わんことにゃんこと秘密の小部屋
2ページ/6ページ



屋敷の東にある森は、さほど大きくはない。静かであまり動物のいないそこは、鍛練にはぴったりだと黒鋼が気に入っている場所だ。
森に入ってすぐに、ファイは黒鋼の姿を見つける。
ちょうど銀竜を鞘にしまったところだ。ということは、鍛練は一段落したのだろう。
「く〜ろ〜さ〜まぁ〜」
「…ああ。どうかしたか?」
「あのね〜、お弁当持ってきたんだよー」
ファイはそう言って、抱えていた重箱を指した。
「………何で弁当なんだ」
「お天気がいいから、外でどうぞ〜ってお手伝いさんが作ってくれたんだ」
にこにこと笑みを浮かべてファイは黒鋼のもとまでやってくる。
「そうか。…まあ、そういうのもいいかもな」
「そうでしょー?ほらほら、食べようよ」
ファイはそう言って黒鋼の服の裾を掴むと、近くにあった大きな樹の下へと向かう。
連れられるまま黒鋼は樹の下へと歩を進め、銀竜を立てかけるとどさりと腰を下した。
ファイも黒鋼の隣にちょこんと座る。
重箱を開ければ、丁寧に作られた料理が所狭しと並べられている。
ファイは適当に見繕って、一緒に持たせてもらった皿に乗せた。
「はい、黒たん」
「ああ」
黒鋼に皿を渡し、自分の分も皿に取るとそれを膝の上に乗せて手を合わせる。
「いただきまぁす」
と、しっかり挨拶をするところは何とも律儀でファイらしい。
つられるように黒鋼も手を合わせる。
微かに聞こえる鳥の囀り。
木々が茂らせる葉の隙間から零れる淡い陽の光。
流れる時間までもがゆったりとしそうな程に穏やかな雰囲気に包まれている。
「ん〜、これおいしいー!あ、黒りんお握り食べるー?」
ファイは手元にあった包みをほどいて黒鋼に差し出した。そこには六つのお握りが綺麗に並んでいた。
「中身は何だ?」
「え?……んん〜、確かね…おかかとさけと〜…梅とこんぶでしょ……あとは………」
ファイは並んだお握りと睨めっこでもするかのようにじっと見つめて記憶を辿る。
ここに来る前、これを渡してくれた世話役の者に聞いたはずだ。
ファイが考え込んでいると、黒鋼は横から手を伸ばして一つを手に取る。
嫌いな具はなさそうだと判断し、ファイの答えを待たずに手に取ったお握りを口に運ぼうとした刹那、ファイがぽんっと手を叩いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ