船の上の物語(ツバサ短編)


□幸せの在り処
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「結婚するぞ」
麗らかな春の訪れを知らせる鶯の声と、膨らみ始めた桃色の蕾。
暖かい日差し溢れる、とある昼下がり。
いつになく真剣な面持ちで、黒鋼はそう告げたのだった。


「…………………」
ぽかんと口を開けて、ファイは黒鋼を見つめた。
何を言うべきなのか散々迷い、何度か目を瞬かせる。
「……え、と…誰と誰が?」
ようやく思考が動き始め、ファイは首を傾げて尋ねた。
「あ?決まってんだろ。俺とお前だ」
至極当然とばかりに黒鋼はそう答えた。
「……………」
ファイは返ってきたその言葉に暫し固まった。
頭の中で黒鋼の言葉を必死に噛み砕く。
…俺とお前?……この場合、『俺』って黒たんの事だよね?てことは、お前っていうのはオレの事でー…………!??
「ええっ!?」
やっとのことで理解したファイは少しばかり遅い驚きの声を上げた。
「反応が遅ぇぞ。つか驚く事じゃねぇだろ」
半ば呆れたように黒鋼は言った。
「お、驚くよ!!だってそんな事突然言われたら…。ていうかどうして急に結婚なんて……」
ファイは軽くパニックを起こした様子でそう返した。
「別に急じゃねぇ。お前と日本国で暮らし始めた頃から思ってた事だ」
「………え?」
「もうそろそろ一年だからな。だいぶ生活にも慣れただろ」
「………………そんなに前から、考えてたの?」
大きな瞳をさらに見開いて、ファイは黒鋼を見た。
「…まあな」
少し照れくさいのか、黒鋼はファイから視線を外して頷く。
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