向こう岸の物語(ツバサシリーズ物)


□箱の中身は?
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諏倭へと到着した二人と数十人の忍軍と世話役の者達は、あらかじめ用意されていた屋敷に腰を落ち着けた。
そして現在、黒鋼とファイは持ってきた荷物をほどきにかかっている。
「・・・ねー、黒りゅん」
ぱかりと箱のふたを開けたファイは眉をひそめた。
「何だ」
「これってー、オレの着物が入ってたはずだよね?」
ファイが覗いている荷物。己の記憶が正しければ、これには自分の着流しやら外出用の服やらが入っていたはずだ。
「入ってるだろ?」
「・・・これ、オレのじゃないよー」
びら、とファイが黒鋼の目前に広げて見せた。
それは淡い色調で仕立てられた見事なもので。思わず目を奪われそうなほどだ。ただし。
「お前のだぞ、それ」
「明らかに違うでしょー!だってこれ巫女の衣裳じゃない!!」
そう。それは、知世姫や天照が身に纏っているものと同じような作りをしているのだ。
つまり。
「あ?だからお前のだろ」
さも当然とばからに黒鋼は言い放つ。
「何でそうなるの!!オレは男だよ!こんなの着たら変でしょ!!」
女物であり、かつ姫巫女のみが纏う衣。なのである。
「お前にゃ言ってなかったか。あのな、代々巫女ってのはその名の通り女が就くんだ」
真剣な眼差しの黒鋼に負け、ファイはとりあえず口を閉じて耳を傾けた。
「だが今のこの諏倭での巫女はお前だ。つまり男がその座に就くっつー異例の事なんだ」
「だからー?」
「異例ってのはそう簡単にゃ受け入れられねぇ。だからお前は表向きは女で通せ」
「は!?な、何それ!オレそんなの聞いてない!!」
「当たり前だ、今初めて言ったんだからな」
しれっといた顔で言う黒鋼に、ファイは納得できないと食って掛かる。
そりゃそうだ。
「っていうかそれが受け入れられないならそもそも最初から知世姫がオレに頼んだりしないでしょ!」
「そりゃ知世姫だからな。んなもんを気にするような細かさは持ち合わせてねぇ」
失礼ですわね、黒鋼。
知世が聞いていたら笑顔でツッコミを入れるだろうが生憎ここにはいないためあっさりスルーされる。
「でもー・・・」
まだ納得出来ないでいるファイに黒鋼は続ける。
「何言ったって仕方ねぇだろ。お前の着るもんはそれしか持ってきてねぇんだからな」
「むー・・・」
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