向こう岸の物語(ツバサシリーズ物)


□にゃんこの逆襲
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「・・・くしゅんっ」
ぽかぽか陽気の午後。
何とも可愛らしいくしゃみが屋敷の一室に響いた。
ずず、と鼻をすするのは顔を真っ赤にして横になっているファイだ。
額に乗せた手拭いも、もう己の熱に暖まりその役目を成さない。
「・・・けほ」
こほん。続けて二回、咳をするも喉に何かがつかえたようなもどかしい感覚は消えない。
「はあ・・・」
ファイは深くため息を吐いた。今日で風邪をひいて(もとい移されて)三日目になる。何分風邪菌の持ち主が黒鋼だったので。
しつこいしつこい。
「くしゅんっ・・・」
・・・黒たん!オレ絶対に許さないからねー!!人がどれだけ心配してたかも知らないでっ。
熱にうかされ火照った体が熱くて仕方ない。そんな中、ファイはかたく心に決めた。
「・・・入るぞ」
声と同時に開けられた襖の向こうにいたのは桶を持った黒鋼。
途端にファイはくるりと体の向きを変え、黒鋼に背を向ける。
「まだ怒ってんのかよ」
やれやれ、と短いため息をつくと黒鋼はファイの傍らに腰を降ろした。
「・・・オレねー、君の事がほんとに心配だったんだよー。滅多に風邪なんてひかない人だから。それなのにさー・・・」
「あー・・・悪かった」
こんなに素直に謝る黒鋼は非常にめずらしい。
一応申し訳なさは感じているようだ。
「・・・・オレ、本気で怒ってるんだからね」
「謝ってんじゃねぇか。根に持ちすぎだぞ!」
「・・・・・・・・・・」
ぶち。
頭の隅で何かが切れた。
怒りのあまり笑みまで零れる。
ファイはけだるそうにゆっくり起き上がると、黒鋼の方を向いた。
不覚にも、そのファイの表情を見て黒鋼はどきりとした。
熱で赤く染まった頬と潤んで深みを増した碧の瞳。
乱れた息を吐き出す少し開かれた薄い唇。
これで欲情しない人間がいたら是非お目にかかりたいと黒鋼は思った。
「ねぇ、黒様・・・」
熱のこもった艶のある声音でファイは黒鋼の名を呼ぶと、その首に自身の腕を絡ませた。
普段より数段熱いファイの体温が布越しに伝わる。
「おい・・・」
引き剥がすのが得策だと黒鋼はその体に手をかけた。
「体が熱くて我慢出来ない・・・。鎮めるの、手伝って?ね、黒鋼?」
耳元で吐息混じりに囁かれれば、理性なんて跡形もなく崩れ去る。
「悪かったって思ってるなら・・・ね?」
「てめぇな・・・。後で文句言うなよ」
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