向こう岸の物語(ツバサシリーズ物)


□わんことにゃんこと秘密の小部屋
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麗らかなある日のこと。

パラリ。
パラ、パラ。
サラ、サラリ。
「う〜ん…この薬草なら使えそうかな〜……。あ、これは根に毒があるのか」
…ふむふむ、気をつけなくちゃー。
自室の机に何やらどっさりと書物を持ち込み、筆を片手に何やら難しい顔で一人ぶつぶつ呟きながら座っているのはファイだった。
どの書物にも、野草や花の絵が描かれ、それぞれについての解説が事細かに書かれている。
「あ、これって確か傷によく効くんだよねー。ってことはー、これとあれを調合すれば……」
思いついた事をすぐに紙に走り書きをする。
書物を読んでは考え、そして紙に走り書き。そんなことをもうかれこれ二三時間は繰り返していた。
「調合に使う器具と部屋は用意してもらえるし、畑もお願いしてあるしー…。あとは黒たんにお願いしなきゃね」
よし、とファイは近くにどっさりと積んであった書類を手に取ると、とんとんと綺麗にまとめる。厚さおよそ五センチ。
それを抱え、ファイは満足そうに微笑んだ。
けれど、次の瞬間にはその笑みを消し少しだけ悲しそうに瞳を曇らせた。
…黒ぽん、明日から一週間もいないんだよねー……。
はあ、とファイは小さく溜息を吐いた。
溜息を吐いてから、ファイははっとしたようにぶんぶんと首を振った。
…仕方ないよ、黒たんは領主なんだし。それに、オレだって諏倭を守らなきゃならないんだから。
心の中でファイはそう自身に言い聞かせた。
「ファイ様」
ふいに自分を呼ぶ声が聞こえ、声のした方を見やれば、そこには一人の世話役の女性が立っていた。
「どうかしましたかー?」
「もうすぐ昼食のお時間になりますので、これを」
そう言って世話役が差し出したのは重箱だった。
ファイは首を傾げつつそれを受け取る。
「黒鋼様はまだ東の森で鍛錬をしておいでです。今日は天気も良いですし、そのまま外でお食事をされるのもよろしいかと思いまして」
不思議そうな顔をするファイに、そう説明した。
途端に、ファイはふにゃりと微笑む。
「わあ〜、ありがとうございますー」
大事そうに昼食の入った重箱を抱え、ファイは黒鋼のもとへと向かった。
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