向こう岸の物語(ツバサシリーズ物)


□心共に。
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暖かい春の日差しと心地良い風が諏倭に訪れる。
ぽかぽかと暖かく、天気の良い今日は。

「絶好の洗濯日和だね〜」
屋敷の中庭でファイは楽しそうに言った。
いつもより少し薄手で動きやすそうな着物を纏ったファイの足元には、洗濯物の入った籠が数個置いてある。
「ファイ様、竿はこのくらいでいいですか?」
「あー、うん。そのくらいかな〜」
「ファイ様!これはこっちに干しますね?」
「は〜い」
「これはこっちでいいですか?」
「うん、いいよー」
周囲には数人の忍軍の者達。
竿を立てたり、籠を運んで洗濯物を干し始めたりしている。
そんな忍者達を見つつ、さて自分も干すかと、ファイは籠の中の洗濯物を手に取った。
基本的に、ファイは動くのが好きだ。
そのため、洗濯や料理を自分でしたがる傾向にある。
最初こそ使用人達は慌てて自分達がやるからと申し出ていたが、それでも笑って楽しそうにやるファイを見て、そのうち無理に止めさせるのは諦めたのだった。
かわりに、ファイがするのを手伝うようになった。
今はもう、それが当たり前の光景となっている。
パタパタとはたいて、竿にかける。
時折鼻歌交じりに洗濯物を干すファイは、見ていて何とも微笑ましい。
そんなファイを見て、手伝いつつも鼻の下を伸ばしている者達がいるのだが、当の本人は
全く気付いていない。

「ファイ様、ファイ様!」
一人の忍者が、洗濯物を干しながら話しかけた。
「何〜?」
「ファイ様は、異国を旅されたのでしょう?」
「え?……えっと…まあ、うん」
…異国、じゃなくて異世界だけどー。ま、いっか。似たようなものだし。
心中でそう思いならもファイは頷いた。
「どんな国があったんですか?」
「あ!俺もぜひ聞かせてください!」
「自分も!」
次々に言い出す忍者達を見て、ファイは仕方ないなぁというように笑った。
「え〜と……。そう、だなぁ…日本国には、四季があるでしょう?でも、季節が一つしかない国もあるんだよ〜」
ファイは洗濯物を干す手は止めずに話し始めた。
「季節が一つ、ですか?」
「そう。一年を通してずっと暑かったり、逆にずっと雪が降っていたりね……」
持っていた洗濯物をバサリと竿にかける。
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