風の繋ぐ物語(ツバサ長編)


□蒼の記憶 T
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澄み切った蒼い空はどこまでも拡がり、この世界には果てなどありはしないのだと伝えているようだ。
暖かな風が頬を撫で、あたりはもうすぐ訪れる春の気配で溢れていた。
まだ人も車も少ない静かな朝。
片手に大きな花束を持ち、それを肩に担ぐように乗せて大股で歩く一人の青年。
寡黙な印象が、花の持つ柔らかさと何故か妙に合っている。
赤信号で立ち止まり、ふと空を見上げた。
強く光る漆黒の瞳。
その瞳に映ったのは、あの空よりも深く澄んだ瞳の持ち主。
まるで、春を運ぶ風のようだ。
青年は、そう今にして思った。
そんな印象の相手と出会ったのは、今から四ヶ月と少し前の事。
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