風の繋ぐ物語(ツバサ長編)


□蒼の記憶 X
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第十二章 叶わない願い


分厚い灰色の雲からは、幾つもの滴がしとしとと音を立てて振り続けている。
色とりどりの傘が咲く中、ファイは淡い青色の傘を差して歩いていた。
「雨、止まないかなぁ〜」
…せっかく黒たんとお出かけなのにー……。
ファイは傘を少し後ろに下げて空を仰いだ。
変わらず降り続ける雨には、止む気配はない。
ふう、と溜息を吐くとファイは、視線を戻して歩く速度を速めた。
たまにはどこかで飯でも食うか。
そう、黒鋼が提案したのは今日の朝だった。
断る理由などなく、ファイは二つ返事で承諾した。
そうして、バイトが昼過ぎで終わるため、そのままどこかに出かけて食事をしようということになったのだ。
そして現在、ファイは待ち合わせの場所に向かう途中だった。
待ち合わせ場所は、交差点の角にある小さなカフェ。
そのカフェは、今ファイが歩いている通りをもう少し行った所にある。
僅かに見え始めたその建物に、ファイはほんの少し眉を寄せた。
…ほんとは、あんまり行きたくないんだけど……。
ファイは心中で呟いた。
行きたくない、というのは決して黒鋼と出かけるのが嫌だというわけではない。
ただ、どうしても気が進まない場所だったのだ。
今、自分が向かっている場所は。
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