中
□夏日
1ページ/3ページ
じわり、じわりと体を蝕み続ける湿度の強い熱。
自分の下にある畳の床は、外気による湿気と、自分の体温でじっとりと嫌に熱を持っている。
その熱を持った場所だけ、世界から切り離されたように感じる。
酷く悲しい。虚しい。
まだ自分の熱に犯されていない場所を探しに行くのももう面倒臭い。
何もかもがうざったくて、今生きているのもなんだか酷く無意味に思える。
蒸し暑いと言っても窓から覗く空はまさに夏の空で、青々と輝き、太陽の光が惜しげもなく地上に熱を放っている。
その眩しさがまた、自分の中にある汚れを浮き彫りにするようで、
その光が最悪に憎らしく思えて、勢い良く部屋じゅうのカーテンを閉めきったのはかなり前の話である。
「………っちぃ。」
自分以外誰もいない部屋のなか、あまりの暑さにその上半身は裸で、畳の微妙な棘が背中の皮膚にざらざら刺さる。
薄暗く、気だるい空気が立ち込める部屋の中で一人考えることにも嫌気がさして無意識の内に意識を手放していた。
「……おい。」
浅く、深い眠りの底で自分以外の声が自分を呼ぶ。
優しく、落ち着く、深い声そう、知っている声だ。
「…おい。四月一日。」
もう一度その声は呼んだ。無駄に読みづらい名前を呼んだ。どこか、心配そうな音に聞こえ、仕方なしに眠っていた意識を無理矢理起こし、口を開いた。
「百目鬼…。」
その四月一日のかすれた声に百目鬼は眉をしかめ、見下ろしていた。
「何してんだ。」
少し怒りさえも感じとることが出来る声に四月一日は僅かに震えた。
それは百目鬼すら感じとるのが難しいくらい僅かに。
「……何だっていいだろ。お前に関係ないし。」
相変わらず先程から同じ位置に寝っ転がってうつ伏せたまま顔も上げずに吐き捨てるように言う。
「…何かあったのか?」
心配気に聞いてくる。
いつもならそれが嬉しくて迷うことなく頼って、話して、優しくしてもらう。
今はそれがうざったく思えて、思わず叫んだ。
「んでもねぇよっ!!!」
さすがの鉄面皮の百目鬼の表情が揺らぐ。