中
□縁側
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ふわり、
浮つく堕落した思考
さらり、
流れる夜の漆黒
熱るこの身体に
絡みついて流れゆく
***
無駄に広い庭先で、すぐ先に構える闇を見据えながら学生にあるまじき遅すぎる夕涼み。
古くさい時計が日付を越えてからもう、軽く二、三時間は過ぎている。
何故か物足りなさを感じながら猪口に透き通る液体を注ぎ、天を仰ぐ。
『月が、泣いてる…。』
俺の何倍も早く頭が溶けてしまった四月一日は、焦点の合ってない綺麗な瞳で月を見て、いつもよりか頼りない声でそう言った。
だが、今俺たちの上にある深夜の月は丸く、くっきり空に光をこぼしていた。
月は、泣いていなかった。
俺の横にいる、月よりも、この世の何よりも綺麗なそれは伏せられているマツゲを濡らしたまま、静かに寝息をたてていた。
それを眺めてながら、また一口強い酒を煽る。
俺自身、この歳ですでに酒に飲まれることはない。
相変わらず、月は闇の真上にいる。そして俺の手の中にも水面にゆらめく小さな月がある。
やはりどちらも泣いていなかった。
今まで酒のお陰で気にならなかったが、季節はもう年末で、夜と朝はやたらと冷え込んできている。
今は熱めの体に、ひやりとした空気が心地好く感じている俺はいいが、…こんなところにこんな薄着で寝かしたままでは風邪をひいてしまうだろうか。
「おい、起きろ。」
「ん…、ぅ…。」
「風邪ひくぞ。」
「ん…、べつ、いぃ…」
出来れば、そのまま寝かしてやりたかったが、とりあえず注意を促すために起こす。
返事はしたものの、まったく聞こえてなどいないだろう。
さらり、
指が触れる、
ぞくり、
背筋が震える。
伸ばされた細い腕が、対照的な俺の手首を掴む。
その氷のような温度に、思わず目を見開く。
寝惚けてとろんとした目が不思議そうに見つめる。
「…どーめ、き?」
「………ぃ。」
「どーめき…?」
「お前、冷たい…。」
「お前、が、あったかい…から、……」
いいや。
そう言って、四月一日はわずかに微笑んで静かに眠りのなかに落ちていった。
その目はもう、泣いてなかった。
そう、いつもより心臓がたかなるのは、きっと酒のせい。
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