+Novel*S
□秋の夜風
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次に気が付くと、見知らぬ建物の中に居た。
ふんわりとしたタオルが痩せこけてうっすら骨の形が浮き上がった身体の下に敷かれている。
『良かった。気がついたみたいで…』
そう微笑んだ声の主は、まだ若い少年だった。
それは、ひどく綺麗な顔立ちの。
『秀一、具合はどうなの
?』
そっと、隣の部屋から声がする。
『助かったみたいだよ』
、母さん』
『そう。よかった…』
安堵に満ちた声がもれた。
『もう、母さんは大袈裟なんだから…』
少年は綺麗な顔を緩めてクスクスと笑った。
『さぁ、どうぞ…』
そう言って、目の前に食事が差し出された。
鼻で匂いを嗅ぐと、胃袋はきゅっと反応し、唾液がみるみる出てくる。
私は顎をあげて、真っ直ぐに二人の顔を見た。
『気にいらないのかしら…』
女の人は、悲しいような困ったような表情を少年に向ける。
『大丈夫だよ』
少年は女の人にそう言ってから、私の方を見た。
『遠慮しなくてもいいよ』
優しい響きが耳をくすぐる。柔らかな声だった。
この人は大丈夫。
その声で警戒が解けた為、お言葉に甘えて食事を頂くことにした。