□雨を喜ぶ
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自動ドアを通り抜けた白い髪に「あ」と声を出してしまった。ぼーっとした彼の顔は驚いた様に一瞬だけ此方を見て、今日はコミックコーナーの棚の影に隠れた。


はあ、何をやっているんだ、自分は。


レジで袋を指で摘まんだり離したりして気を紛れさせている。



あの人の名前はなんだろう

あの人何をやってる人なんだろう


気なんてちっとも紛れてなくって、自分の欲に忠実に大人しく彼のことを考えてみた。




「すみません」
「は、い‥!!?」


低い声で呼び掛けられて伏せていた瞼を起こしてみたら、目の前にいたのは彼で、それは驚いた。


「す、みませんでした、、此方一点で230円になります」
「はい」
「ありがとうございま‥」
「何で驚いた顔したの?」


ドキッ!!!


確かに心臓がそうなって、目線を左下右下左上右上。


「‥あ、あの、」
「俺よく月曜日にジャンプ買いに来てんの、知ってた?」
「あ、はい‥知ってます」
「あと俺本屋来るときいっつも雨なの」
「それも、はい‥」




「今日何時に上がるの」



「え??」


「だから、今日何時に‥」
「八時です!」


そう告げると、彼は腕時計を眺めてその後に私を眺めた。


「あと、30分だな」
「そう、ですね」
「結論から言うと、」
「はい」
「好きです、気になりますお姉さんのこと」
「はい」
「だから今日送らせて」



雨を喜ぶ



雨の音とドキドキが重なる。



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