短編1

□愛奏狂乱
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遥か東方の地

あの人は行ってしまった

確かに私の傍にいた、

貴方の鼓動は遠く、遠く。



ねえ聞こえないの、

貴方の存在の証を

一瞬でいい

もう一度私に下さい、


愛奏狂乱





嗚呼
苦しい

呼吸をするのも
貴方が必要なのね


滑稽なほどに依存した私から
お前は、――あの人を奪った。

焼け付くのは憎しみの渦



(返してよねえ返して。)


私は蜘蛛より、貴方が大事なの



ふふ、狂いそう
・・いいえ、もう狂っているから


貴方の声が、鼓動が、吐息が聞きたくて
貴方の存在証明が欲しくて
私は一人ぼっちの部屋で、ただ一心に耳を傾けています。

来る日も来る日も
何もせず、四六時中



…なのに、どうして?

貴方が聞こえない

依存するが故に手に入れた
私の異常聴力の念でも

喧騒にかき消されて



うるさいのよ

貴方以外の声など
消えてしまえばいい
邪魔する音は、

消してしまおうか。

(クスッ)


記憶を辿って

東へ 歩みゆく

歩むごとに少しずつ
感じ始めた貴方の存在がうれしくて

後ろに転がったたくさんの
死体なんて気にならなかった




ああ、やっと、追いついた


手を伸ばしかけて
ふいに止まる

否動けない


貴方は深い微笑み





「追・・・・つ・た・・・だな」






(だまってよ、聞こえないでしょ!)


私の鼓動は邪魔。

私の愛と似た赤を露出
とても、鮮やか



一思いに木っ端微塵






やっと聞こえた貴方の言葉は。


「今回の仕事で、お前の能力を拝借した。
最期まで利口な女だったよお前は


さよならだ」





伏した大地の先に
背を向けた鮮明な逆十字を捉えながら
生きてきた中で一番安らかに瞳を閉じた。


(貴方の力になれたのなら、本望。)






幻影、
逆十字の死神に魅せられて





END  08'4/29
修正09'8/13

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