05/05の日記

12:30
『DAYBREAK'S BELL』477
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(……………落ち着かねぇ)

新入隊員がやって来る迄の間、手持ち無沙汰になった日番谷は、気を晴らす為に相変わらず堆く積み上げられている書類の山から一枚、手に取った。

ちりん。

彼の動きに鈴が小さく鳴った。

『彼』と別離れてから、日番谷はずっと隊員が入隊して来る度、密かに一人一人全員の確認をしていた。
それから度々、郛外区にも捜索の為に訪れている。
しかし未だ『彼』だと思えるような人物には遭遇出来ていなかった。

未だ現世に留まっているのか、逢った中に既に居たのか――未だ逢っていないのか。

絶対に見付け出してやる――そう告げて『彼』を送り出したのだけれども。
半世紀経っても、その想いは変わらない、けれども。
日番谷はこの打破出来ない現状に少しだけ焦りを感じていた。

鈴がちりん、と鳴った。


「失礼します――」


聴き慣れない声に次いで、からり、と戸が開く音も聴こえた。

(来たか……)

音に、日番谷が書類に落としていた視線を上げた。


「あ、来たみたいですね」


同じく気付いた松本が寝そべっていた身体を起こす。


「迎えに行ってやれ」

「わかりましたぁー」


目を通していた書類に署名をしつつ松本に命じると、直ぐ様彼女は立ち上がり戸口へ向かって行った。

暫くして彼女の足音とそしてもう一つ。
二つの足音が日番谷の耳に届く。
近くに感じた気配に、日番谷は署名し終えた書類を脇に置いた。
顔を上げ、松本の隣に並ぶ人物を見遣り――日番谷は翡翠の瞳を大きく瞠った。

一目見て解った。


「今度、十番隊へ赴任しました――――です」


目の前に立つ青年は、『彼』とは聲も容貌も持つ色彩も違う。
けれど。


「お、れは………」

「識っています」


笑い方が同じで。


「十番隊隊長日番谷冬獅郎さんですよね?」


そう言って青年は徐に日番谷の掌を取り握り締めた。


「八十年間ずっと貴方のことが好きでした。良かったら、今度こそオレと結婚を前提に付き合って下さい」

「―――――っ!!」


バサバサバサッ。

書類の山が崩れ、部屋中に舞い散る。
日番谷は『彼』の胸許へ飛び込んで行った。

腰に下げられた鈴がちりん、ちりん、と音を奏でていた。





終わり

ここまでお付き合い下さりありがとうございました。
明日は後書きっぽいものを書こうと思います。

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