@

□また来るから
3ページ/4ページ

「ちわー」


がらがらと無遠慮に隊舎の引き戸を開ける

月の光に栄える橙がやけに眩しい


「えーっと、隊主室は‥」


橙、もとい黒崎一護はそう呟いた
人間でもある彼がここへ来た理由は1つ


「冬獅郎起きてっかなー」


恋人の、日番谷に逢うためだ



ふたりは一応、恋人という関係だが、頻繁に逢えるかと訊かれたら即無理と答えるだろう

何故か

ふたりは違うからだ

住む所が、住む次元が、環境が、立場が、

そして

黒崎は人間で、日番谷は死神だった


だからか、ふたりはなかなか逢えない
逢おうと思っても、逢えない

だから、


「ぜってぇ逢ってまず抱き締めてやる‥!」




がら

また無遠慮に、今度は隊主室の扉を黒崎は開けた


「冬獅郎ッ! 、あ れ?」


見ると、暗闇の中に、銀色がいた

近寄ると、それは愛しい、


「冬獅郎‥」


くうくうと、器用に頬杖をつきながら可愛らしい寝息をたて、眠る恋人

肘の下には書きかけの書類が敷かれていて、仕事の途中だということが伺える


なんとも悪い時に来てしまったと黒崎は後悔した

折角逢いに来たとは言え、気持ちよさそうに眠る恋人を起こす気にはなれない


「仕方ねぇな‥」


溜息混じりに言って、転がっていた筆を持つ

そして白い紙にさらさらと一言書いて、筆を置き、


「じゃー帰っかな、」


顔に落胆の表情を浮かべたまま、扉へ向かった

すると


「‥‥‥い ち、ご‥」


ばっと振り替える
しかし銀色は目を閉じたまま

寝言かよ、という虚しさみたいなのと一緒に嬉しさを感じたのは、自分の心にしまっておこう





くうくうと
眠るきみ

多分起きないだろうけど
やっぱりそのまま帰るのは勿体ない気がして


もう一度銀色に近づき、

顔を寄せて、銀糸のような髪を撫でた後


軽く唇を合わせた











次の日の朝、日番谷は朝一番に「寝ちまってた‥」と呟き、気づく


「‥‥‥、?」


白紙だったはずの紙に、『オツカレサマ』の一言、と、






また来るから
(起きて待ってて)







日番谷はくすりと笑い、


「いーや、今度は俺が行くよ」


そう、言った








END
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ