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□少年は、還る(前編)
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「ただいま戻ったっす」

「……戻った」

「お帰りなさい、二人とも」


十番隊執務室に戻り声を掛けると、独り仕事をしていた十番隊副隊長の松本乱菊が出迎えてくれた。


「今、お茶を淹れるわね」

「あ。オレ淹れて来ましょうか?」


黒崎が日番谷の仕事の分まで忙しい松本を気遣って申し出る。
しかし松本はその申し出を首を横に振って断った。


「いいのよ。気分転換させて」


そう言って給湯室へ向かった。



―――――


「で、どうだったの?今日は」


三人掛けの長椅子に仲良く並んで座っている二人の反対側の椅子に松本は腰を下ろし、入れてきた茶をコポコポと湯呑みへと注ぎつつ訊いた。
すると、二人は首を横に振る。


「そう………」


二人に茶の入った湯呑みを渡しながら松本は呟く。

黒崎が覚醒め体力が完全に回復すると、二人は日番谷が失くした記憶を取り戻す為、『彼』の思い出の場所を『彼』を取り巻く人達から尋ねて回っては訪れ歩いていた。
が、今のところ結果は一向に芳しくない。


「………す、すまん」

「だから、お前のせいじゃねぇーーって…」


またまた謝ってしまう日番谷の頭を黒崎が軽く小突いて宥める。


「……………あ、ああ」


(…何、やってんのかしら、ね)

自分にも茶を注ぎ一口啜った松本は思う。
彼女は見逃さなかった――日番谷がほんの一瞬だけ寂しそうな表情を見せたことを。
そして、その原因と理由を推察するのも彼女には容易いことで。

コト、と松本は湯呑みを座卓に置くと、パンと手を叩く。


「あ。そうだ。浮竹隊長からお菓子を戴いていたの、すっかり忘れていたわ。隊長、悪いんですけど給湯室にありますので、取って来て頂けます?」

「あ、はい、わかり…えと、わかった……」


にこにこと笑い両手を合わせて、所謂「お願い」のポーズを取って言う松本の頼みを日番谷は快諾し、給湯室へトコトコと向かう。

日番谷が給湯室の方向へ姿を消すと、


「さて、と。――黒崎」





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