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□A Broken Mind
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「冬獅郎……」


二人きりの部屋の中、オレは恋人の冬獅郎の綺麗な顔へ自分の顔を近付けた。


――ぴく


(あ、また……)


オレが何をしたいのか気付いたのだろう、冬獅郎は一瞬だけ柳眉を寄せた。


――まるで、拒むかの様な其の仕種は。


(オレとキスする時の――“癖”)


「……………んっ」


真っ白い布に拡がる染みの様な心の奥の不安をオレは拭い去るように、冬獅郎の薄く色付く唇に押し当てる。

もう一度…

もう一度……


「……く、ろさき?」


漸く離したオレを不思議そうに見詰めてくる冬獅郎が

愛しくて

愛し過ぎて

――泣きたくなった。


「キス、嫌だった?」


すると、冬獅郎は貌を真っ赤にして俯いて、でも首はふるふると横に振る。


「………嫌、じゃない」


そう言う冬獅郎は本当にオレの事が『好き』だと思えるのに、感じさせてくれるのに――

(……もう、限界)


「嘘、ばっかり」


どうせ今の関係が偽りなら完璧にオレを騙してくれたら……

偽って
欺いて
誑かして
丸め込んで

『嘘』なんかじゃない、と
本当に『好き』なんだと

――信じていたかったよ


「え………?」


オレの言葉に冬獅郎が俯けていた顔を跳ね上げる。
オレの大好きな碧の瞳を見開いて。


「オレとキスするのもセックスするのも本当は嫌なんだろう?」

「な、んで……そん、な……俺は……」

「オレが――――――『市丸ギン』じゃないから」

「!!――知って、いたのか……」


オレの言葉に冬獅郎はより一層瞳を大きくする。

(ほら、やっぱりだ)


「知らないとでも思ってた?」

「―――――――」

「知っていたよ。最初からずっと」


そう『好きだ』と自覚する前から、お前には『誰か』想う人が居るんだ、て。
オレは知っていた。

その『誰か』が市丸だ、と知ったのは、つい――最近だけど。


「違う!彼奴とはそんなんじゃ………」

「………それでもいいと思っていたんだけど」


お前と付き合えるなら、それでも構わないと本当に『あの時』――冬獅郎が「わかった」と言って頷いてくれた時、そう思ったんだ。


「……でも、駄目だった……」


唇が震えて、オレの頬を暖かなものが伝っていく。

……………オレ、泣いてる


「黒崎……違うんだ。頼むから話を聞いてくれないか?」

「じゃあ、何でオレとキスする時、眉を顰めんだよっ?!」


――ダンッ


床を拳で力一杯殴りつけ、叫ぶ。


「そ、それは………」


言い掛けて口を閉ざし俯く冬獅郎。


「……………別れよう」


気付けば、オレは別れの言葉を口にしていた。
自分でも驚く位、あっさり。
冬獅郎はは、と顔を上げてまた再び俯いた。

そして――


「……………わかった」


返って来た言葉はやっぱり一言だけ。

『あの時』と同じ。

その一言を聞いてオレはすく、と立ち上がり冬獅郎の横を通り過ぎた。


「さよなら、冬獅郎」

「―――――――」


返って来る返事は無い儘、オレは冬獅郎の家を後にした。





END
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