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□スワンソング
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「わああぁぁぁーーーんっっ!!」


おじいちゃんの首に抱きついて泣いた。


「………何で、翠香の奴泣いているんだ?」

「それがどうも此処に来る前から泣いていたらしくてな、俺にも分からん」


おじいちゃんがあたしを抱き上げて、背中を優しく叩きながら、一護おじちゃんの質問に首を横に振った。その間もあたしはずっと泣き続けていて。


「とにかく一護。後は俺が診るから、お前は翠香ちゃんに付いててやれ――翠香ちゃんはお前に一番懐いているからな」

「悪いな、親父」


おじちゃんはあたしを一護おじちゃんに引き渡すと、そのまま診察室へ姿を消していく。


「ぐす………っく、………」

「ほら、翠香。あっちで話、聞かせてくれよ」


ぐずるあたしを抱き上げて、おじちゃんはおじちゃんの部屋へ連れて行ってくれた。


「――で、どうしたんだ?何があった?」

「ひっく……おじちゃん………」


スカートの裾をぐ、と握って、必死に嗚咽を噛み殺してあたしは言葉を紡いだ。


「おじちゃ、とあたし……結婚できないって本当?」


でもどうしたって涙は止まらなくて、頬を熱いものが伝い落ちていく。おじちゃんは少しの間、あたしの問いに動かなかった、けど。すぐに表情を真剣なものへと変えた。

ああ……友達の言ってたことは本当なんだ、と気付いた。また涙があふれる。


「翠香、それを誰に訊いたんだ?」

「今日…ぐすっ……クラスの友達がそ、言ってて……」


あたしは友達が話してくれたことをおじちゃんに伝える。


「そっか。翠香、ちゃんとオレの話聞いてくれるか?」

「……………うん」


あたしは頷くと、袖で涙をごしごしと拭った。


「確かに。その子の言った通り、翠香とオレとは結婚出来ないよ。でも、それはしたらいけないって、法律で決められているからじゃない。オレには心に決めた大好きな人が居るからだ」

「………すい、かよりも?」

「ああ」


おじちゃんは頷く。


「翠香よりも翠香のママや翠香のお祖父ちゃんよりも、オレにとては大切で大好きな人なんだ。だからオレは翠香とは結婚出来ない」


ごめんな、とおじちゃんはあたしの頭を撫でる。それから「ありがとう。翠香の気持ちは凄く嬉しいよ」と続けて、あたしを抱き締めてくれた。
おじちゃんの腕の中であたしはずっと泣いていた。
哀しくて。哀しくて。
おじちゃんはあたしが泣き疲れて眠るまで、ずっと背中を擦ってくれていた。

――こうして、あたしの初恋は終わったのだった。





◇ ◇ ◇





それから五年の月日が経ち、あたしは中学三年生になった――


「ちょっと待ちなさい!あんた達」


道を歩いている三人の男子高生の前をあたしは塞いで言う。三人ともいかにも不良、て感じの高校生だった。


「何だ、てめー」


三人の打つの一人があたしを見て露骨にイキがってみせた。ソイツの目の前にあたしは花瓶を突きつける。


「何、だ?」

「見えないの?花瓶よ、か・び・ん」


彼等に説明してやる。
全く花瓶もわからないなんて、どれだけ馬鹿なの?
と、あたしはその思いを隠そうともせず、溜息を吐いた。
その態度が彼等には気に食わなかったのか、三人はぴく、と血管を顔に浮かび上がらせる。何て、単純。


「んな事ぁ、見りゃわかるわ!ソレが一体何だってんだ?!」


やれやれ、自分のしたことこいつ等全然分かってない。
はぁ、とあたしは二度目の溜息を洩らす。
こいつ等に教えてあげる必要があった。そして詫びを入れさせなきゃ。


「分かんない?これはあんた達がさっき蹴飛ばしたものよ」

「はぁー?それがどーしたんだよ?!」


別の一人が言う。反省の欠片も無いそいつの態度にキレたあたしはそいつの胸倉を掴み上げた。


「いい?この花瓶はね、ここで亡くなった人を弔う為に花と一緒に置かれてあったの!それをあんた達が蹴飛ばした所為で花はぐちゃぐちゃ。この責任はきっちり取りなさいよね!!」


掴み上げていた胸倉を離す。そいつはバランスを崩して二、三歩後ろに下がった後、残りの二人と顔を見合わせて、


「「「ひゃーーーはっははは……」」」


三人が声を揃えて笑った。
ハイ、死刑決定。


「誰がそんな事するか、バーカ…ごふっ!」


即決で判決を下したあたしは、内の一人の股間を思い切り蹴り上げた。当然、そいつは地面に蹲って悶絶する。悶える彼を見て、残りの二人がキレる。


「てめー、この野郎ブッ殺してやる!!」


襲い掛かって来る二人に、すかさずあたしは身構えた。踵を上げ、軽くステップを踏んだ――その時。


「はいはい、ストーーップ!」


何者かがあたし達の間に割り入って来た。誰だ、とそいつを見れば、橙色が太陽の光を反射して輝いた。一護おじさん。


「いち……」

「てめーら、女の子一人に男が寄ってたかっては余り感心しねーなぁー…」


一護おじさん、と呼ぼうとしたけど、おじさんの余りの迫力にそれ以上言えなくなってしまった。
凄い。こんなおじさん初めて見る。



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