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□オレンジ・デイ
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「自分も逢えて嬉しい」なんて可愛い事、不器用な性格上いえない日番谷は黒崎の言葉にただぶっきらぼうに頷く。
だが、その代わりにと日番谷はそろそろと黒崎の背中に手を回した。
一方。
そんな彼の性格を熟知している黒崎は回された腕の感触の、その意図するところを悟って口許を綻ばせる。
黒崎にも判ったのだ。
日番谷が自分と同じ気持ちだという事を。
「冬獅郎」
名前を呼んで。
彼に口付けを落とす。
そしてゆっくりと日番谷の身体をソファへ横たえさせた――…
―――――
(結局、松本の思う壷か……)
隣の綺麗に筋肉のついた黒崎の身体を見ながら、日番谷は思った。
『人間』と『死神』。
住む世界も流れる時間の早さもまるで違う二人が逢う事はなかなか難しくて。
恐らく、日番谷を想っての贈り物だという彼女の科白も、本当の気持ちなのだろう。
勿論、自分の目的を果たした上での、には間違い無いのであろうが。
「だが、悪くない」
「ん?何か言ったか?」
「否。何でもない」
独り言を聞き咎めたらしい黒崎が首を傾げ日番谷を見た。
それには首を横に振って否定すると、その拍子に髪が顔に掛かる。
鈍く光る絹糸の様な日番谷の銀髪を黒崎は優しく掻き上げてやる。
彼の掌の感触が気持ち良くて。瞳を細めると黒崎に唇を重ねられた。
「そういやさ」
「何だ?」
「乱菊さんに渡してたアレ、結局何だったんだ?オレ、アレの為に此処に連れて来られたんだろ?」
「ああ」
黒崎の問いに日番谷は口許を僅かに綻ばせて頷く。
「で、何?」
「彼れはな――休暇届だ」
「……………へ?」
「うちではな……」
日番谷は説明する。
十番隊では、隊員の休暇届は有れば有るだけすぐに使い切ってしまう『副隊長』の為の対策にと、届出の際に必要な書類は隊長である日番谷が預かっていた。
また、隊長印の無い休暇届は受理して貰えない。
そしてその『休暇届』は偶然にも橙色の紙で出来ていた。
其れに目を付けた松本は、今日のオレンジデーというイベントにかこつけて、日番谷から休暇をもぎ取ったのである。
黒崎一護という橙色の髪色をした日番谷の恋人を使って。
「……という訳だ」
「…じゃ、じゃあ、休暇が欲しいからオレ、尸魂界へ連れて来られた、のか?」
「まあ、そうなるな」
「……………」
(ふ、複雑だ……)
恋人に逢えたのは嬉しいけれど、其れが一個人の極々私的な理由であったと知った黒崎は、この時程自分の髪色について複雑な想いに駆られた事はなかった。
END