NOVEL1
□ボールに込めた想い
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18.44メートル先のアイツの心に
白球を通じて届いてしまえば、楽なのに。
なんで相手を想う気持ちってのはうまく伝わらないんだろう。
◆
そんなもん、言葉で言わなきゃわかんねぇだろ。
倉持は意味不明なことを口走った御幸の頭を叩いた。
殴ることないでしょ、と嘆く我らが青道捕手は患部を撫でながら、接続詞で続ける。
「だってそう思わねぇ?倉持は」
「思わねぇし。つーかキャッチャーマウンドでそんなこと考えてんのか、てめぇは。」
「別に?うちの投手全員相手にしてんだ、いつもそんなこと考えてらんねぇよ。」
ただ授業中とかメシ食ってる最中とか寮から学校までの歩いてるとき。そんな不意なときに思い浮かぶのは、その疑問なのだ。
ポン、と素直に言えたらアイツの答えがイエスだろうがノーだろうが、すっきりするのに。と思う。
でも実際は言えないってのが事実で。
「ヒャハ!野球に対してはすげー直球なのにな、お前。恋については変化球ってか?」
「ごもっともで…」
恋という単語に対してか、周りで2人の様子を伺っていた女子生徒がざわつく。しかし彼らはそんなこともお構い無しに会話を続けた。
「しかも変化球だと向こうが気付かないってオチもあるかもしれないからな」
「あーまぁ、あの鈍感じゃそれもあり得る。」
「………それはお前にも言えるんだけどな」
「ん、何か言ったか?倉持」
「別に。」
お互い鈍感すぎるんじゃないか?
周りが嫌ってほど気付くほどアイツとコイツは意識し合ってるのに。
倉持は呆れて溜め息を吐く。
「お前ら、キャッチボールはしたことあんのかよ」
「んー?そういえばしたことねぇかも。アイツ、いつも小湊弟とやってるみたいだし。俺は降谷の相手しなきゃならねぇし…」
「してみろよ、キャッチボール」
「は!?」
「ほら、良く言うだろ?キャッチボールはお互いの気持ちが良くわかるって」
「まるで親子じゃねーか……」
「ヒャハハ!良いからやってみろよ。何かわかるかもしれねーからな?」
意味深げに口角を上げて笑う倉持を不思議そうに見ながら、御幸は息をついて曖昧にうなずいてみせた。
確かにキャッチボールはしたことない。
けどキャッチャーとしてボールを受けることを拒否(というかめんどくさいから疎かに)していた自分が今更しようといってもアイツは首を縦に振ってくれるのだろうか。
そんなモヤモヤとした感情を沸々とさせながら次の授業の教科書を用意した。
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