NOVEL1
□虚空に消えた想い
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気付いた時にはもう、あいつは降谷のものだった。
最初のころはただのケンカだったはずなのに。(それも沢村の一方的な)
その変化に気付いたのはほんの些細な瞬間だった。
ある日の午後練。
丹波さん、降谷は練習場で俺と宮内先輩に投げ込み。川上と沢村はクリス先輩がついてトレーニングをしているときに、気付きたくないことに気付いてしまったのだ。
「降谷!もうちょい丁寧に投げろ!」
「…………はい」
いつもどおりの素っ気無い返事。だから俺は大して気にしていなかった。
足をあげる。
長身から繰り出される直球のスピードだけなら丹波さんに引けを取らない。コントロールとスタミナはまだまだだけど。
ミットに吸い込まれてくるような白球がいい音をたてた。
「よし。公式戦でもこういう風に丁寧になげろよ」
「………」
答えない。
ったくなんだっていうんだ!
今日は曇り空だから、そんなに暑くない。視線はこっちに向いていないし。
「降谷、なに見て…」
俺の言葉に反応することもなく、降谷はそっちを見続ける。
その先には、
(沢村、か?)
投球練習場の外。川上と、クリス先輩と、沢村の姿がある。
クリス先輩は2人の筋肉を見ているようで、彼らの手首に触れていた。
その様子を見る、降谷の目。
クリス先輩は確実に沢村に落ちていた。これはいくら鈍感でもわかるくらいだった。
そりゃあライバルが一緒にいたら気になるわな。(俺があれと一緒にいるときもすげー顔しているし)
部活だけれど触れているなんて。
ここには沢村を狙っているやつは多い。俺もその中のひとりだし、あの人も、コイツもその他の連中も理解していた。
けれど、今までと違うことが1つあった。
沢村と目が合う。
いや、正確に言えば『降谷を見ていた沢村』と目が合ったのだ。
結構な距離があってもわかる。
漆黒の瞳に、隠しきれていない柔らかさがあることが。
それは恋に堕ちた女と同じ。
それは今まで堕としてきた女と似ていた。
あれからずっと、秘することができない不器用な沢村の瞳から消えることはなかった。特に降谷を見るときは、直視できないほどに。
降谷は上手く隠しているのだろうけど、相手がそれでは2人の関係は見え見えだった。
おもしろくない。
なにもかもだ。
俺は沢村が中学のときに出会ってから、ずっと。
降谷よりも、クリス先輩よりも前から見ていたっていうのに。
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