NOVEL1

□不安定ラブロマンス
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今から一雨来るんじゃないのかってほど、灰色の雲が空を覆っている。

そこでようやく手を離した俺は、どかりと胡座をかいてコンクリートの地面に座り込む。

沢村は観念したのか、俺の目の届くところに立っている。
次の時間(と言っても先程チャイムが鳴り響いたのだが)は英語だったのか、小脇に抱えている辞書がやけに重たそうに見えた。(否、実際重たいはずなんだが)



「…倉持先輩って結構面倒見良いですよね」

「誉めてんのか、それ?」

「当たり前じゃないっすか!」




ふっと沢村が苦笑する。
そのときの表情がこの空のように曇っていて、思わず息を呑んだ。
不覚にも綺麗だと思ってしまったのだ。

俺は視線をコンクリートの床へと逃がした。




「んで、何があったんだよ。どうせ御幸とのことだろ?」

「はは、お見通しなんですね…」



瞬間、心の中で舌打ちした。
とにかく見ていられなかった。
暗いコイツを。
俺は御幸が沢村を突き放す原因を知っているから特に、だ。






「あの人が悪いわけじゃないんです。」

「はぁ!?」

「確かに御幸先輩と俺は付き合ってますよ?でも、きっと心は俺のところにないんです。だから今日も女の人と居ましたし………」



沢村が寄りかかったフェンスがカシャン、と音をたてた。
乾いた音だった。



「それは、俺があの人をつなぎ止めておけないからで」

「違ぇよ…」

「いえ、それが合ってるんです…」

「違ぇって言ってんだろ!!」

「────!!」





張り上げた大声に、沢村は目を見開いて肩を揺らした。

その目を見て殺那的に後悔した。

俺は今、言っちゃいけねぇことを言った。


確かに沢村とヤツの間にカンケイがあるのは事実で、ヤツが“ある理由”で沢村から離れているのも事実。


けど、それは決して沢村のせいなんかじゃないんだ。




全部、全部、──────








突如コンクリートに染みが出来る。
空を仰げば、先程よりも黒く厚い雲。



ポツリ、ポツリ、



雨が降りだしていた。




「ちっ……おい、沢村!場所移すぞ!!」


「……………」


「沢村!!」




呼んでも反応はなし。
まったく自分がピッチャーだって自覚があるんだかないんだか…。




「コラ、肩冷すだろ?」

「す、い──やせん」




雨足は強くなる一方。
倉持は早く沢村を中に入れようと、顔を覗き込んだ。




「…泣いてんのか?」


ずず、と鼻を啜る音が聞き取れる。
雨と涙の差がわからないほど、栄純は濡れていた。




「風邪ひくから…行くぞ」

「……うす」



水分を吸ったブレザーは重い。
ワイシャツまで染み込んでいて、気持ち悪い。


このままでも風邪をひいてしまう。
2人は一度寮に戻ることにした。





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