NOVEL1
□ボールに込めた想い
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18.44メートル先のアンタの心に
白球を通じて届いてしまえば、楽なのに。
なんで相手を想う気持ちってのはうまく伝わらないんだろう。
「栄純くん?」
「…………あ、春っち」
春市は栄純の肩をポンと叩いた。
いつもの明るい笑顔は曇りがかかり、今は見ることができない。
どうしたの?と優しく声をかけるとほんのりと頬を赤くする彼をみて、あぁまたあの人絡みなんだなと直感した。
「御幸先輩のこと?」
「な゙!?」
「だって顔に書いてあるよ。どうしたら気持ちが届くんだ〜って」
今度はほんのり、なんてものじゃなくボッとまるで爆発したように赤面した。そして同時に両手で顔面を覆った。
かわいいなぁと春市は思いつつ、こんなにも彼に思われている先輩を羨ましく思った。
「栄純くんも言わないの?」
「え゙!?なな何を!?」
「好きですって。御幸先輩に」
「言わないっ!ってか言えないっ!」
なんだつまらない。
口から漏れそうだったその言葉を喉の辺りでグッと抑え込む。
なんでもおもしろく感じてしまう兄の所為だ。(口が裂けても言えないけれど)
「でも…」
「でも、想いは伝わって欲しい気がする?」
「!…う、うん」
そっか、と息をつく。
なんというか初恋を経験した女の子みたいだと思う。とても初々しい。
「じゃあキャッチボールしてみたら?」
「!?」
「だってほら、ボールに想いを込めれば伝わるかもしれないでしょ?」
「でもアイツ、いつも俺から誘うときは拒否るし…」
「それは面白がってるだけだよ。バッテリーとしてのキャッチボールじゃなくて、栄純くんと御幸先輩としてやってみたら?」
それほど難しいことを言っているつもりはないのだが、栄純は意味がわからないという表情で首を傾げた。
「とりあえず今日の部活が終わったあと、言ってみたら?」
「わかった……」
さて、これが吉と出るか凶と出るか。
倉持と春市は楽しみだと言わんばかりに微笑するのだった。
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