NOVEL1
□ボールに込めた想い
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「なー沢村」
「なんだよ?」
「なんでキャッチボールしたかったわけ?」
「なっ!?…理由なんて特にねーよっ!」
「じゃあ誰かにやってみたらって言われたとか」
「っ……言われたよ!春っちに!」
それがなんだよ、とぼそぼそ言いながらボールを投げる。
御幸は考えを巡らせ、自分達がキャッチボールをしていること自体が全て仕組まれていたと行き着く。
栄純はというと気付く様子もなく、相手からボールが返ってこないことに眉を寄せていた。
「御幸!」
「なに?」
「なんでキャッチボールしてくれたんだ?」
「気まぐれ」
他愛もない会話はぷつんぷつんと切れ切れになっていく。
次第に話す話題も乏しくなり、再び2人は口を閉ざした。
栄純はミットに収まった硬球をいつものように握る。
しかし、いつもと違ったのはそのボールに込める想いだった。
(ちょっとだけでも良いんだ…………俺の気持ちが少しでも御幸に届いたら、それで良い)
シュッ…!
投げられた白球は綺麗な弧を描き、御幸に届く。
(ん?)
収まった瞬間、ミットを伝わって全身に響いたのは通常ではあり得ないモノ。
ボールが何故かドクン、と鼓動したような錯覚をも感じてしまう。
(まさか)
暗闇で栄純の様子は窺い知れない。
けれど───────
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