NOVEL1
□一夏ロマンス
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「なんで俺らまで…」
ああ、天に上っていく煙がまた空しいような。
品川は額に手の甲を当てると、自分たちが来た道を振り返った。
2人がいるのは屋台が並ぶところから離れた境内の裏の奥。
雑木林が周りを取り囲み、不気味な雰囲気を作り出していた。
いつかマコトを学校に行かせるために生徒会全員で潜入したオンラインゲームで、いきなりバトルフィールドに出てしまった足立ならこっちに来るのだってあり得るだろうと和泉が言ったのが運のつきだった。
完全に迷子だ。
この神社は地域では有名なところで、並以上には広い。
出店の数も多いし、花火が上がるためあと1時間ほどはこの雑踏が消えることは、おそらくないだろう。
「どーすんだよ。千葉にでも電話するか?」
足立は携帯電話を所持していない。
なら千葉と連絡をとり、合流したほうが確実に良い。
和泉は自身の浴衣の帯から携帯を出そうとするが、品川の手によって阻まれた。
「待てよ」
「…他に良い案があんのか、このバカが。てめぇがない脳ミソ搾ったって俺より良いアイディアが浮かぶとは考えられねぇ。いいか?そもそも迷子というのは───」
「ハイハイ。御託は後にしよーぜ、和泉。どうせ足立なんざ、千葉のでっけー背に気付いてもう合流してるだろうよ。」
「そうだとしても。俺たちは合流しなきゃならねぇだろ。」
パチリ、と軽い音がした。
和泉の黒い携帯電話の液晶画面が鈍く光る。
その明るさで品川の底意地の悪そうな笑みが浮かび上がった。
「てめぇ…」
「せっかく燃えるシチュエーションにいんだから、千葉に連絡すんのはちょっと待とうぜ?」
「なに考えてがる……」
「え、イイコト。」
逃げようか。
いや、それは格好悪い。
サシで喧嘩したら俺のほうが強いに決まってるんだ。ここはコイツの出方を待って…。
「なあ、和泉」
「……あ?」
「ココは結構奥に入り組んだところだし、滅多なことがなきゃあ人は来ねぇって知ってたか?」
「知らねぇよ。そもそもこの学区に住んでんのは品川、てめぇだけだろ」
そう、ご名答。
とでも言いたげに品川は人差し指を天につきだす。
「つまり。生徒会の誰かに電話なりメールなりをしなければ、この場所には誰もこない。」
ということは?
品川は、さも自分が博識にでもなったかのように胸をはる。
彼よりもはるかに頭の良さでは勝る和泉は、目の前の男が何を考えてるか察し、じりと後退りした。
「逃がさねぇよ?和泉」
「……ッッ!?」
つかまれた左腕が熱い。
品川に胸の高鳴りが聞こえては困る。離れようとなんとかそれを振りほどこうと腕を手前へ引くが。
背の高さとガタイの良さでは品川のほうが上だ。抵抗もむなしく和泉はおとなしく力を緩めた。
「覚悟決めろよ」
「ふざけるな、品川!」
誰もこないとは言ってもそれはお前の単なる推測だろう!
もし、この辺りに花火の絶景スポットがあったらどうするんだ!
つーかその前にお前はなんで腰に手を回してんだよ!?
「…てめぇ…殺されてぇのか!!」
「和泉に殺されるなら本望」
「その口、縫ってやりてぇ!!」
空いた右手で品川の右頬を引っ張る。それはもう込められるだけの力で思い切り。
そりゃあ今までの俺ならこんな状況だったら、すぐに鳩尾に拳を入れていただろう。否、今でも十分殴りたいのだが。
しかし、それが出来ないのはきっと───
「自分が思っている以上に、俺は品川に惚れてるってことか?」
「は?」
ぽかんとした間抜け顔。
遠くに見える提灯の光と、品川の脱色した髪の毛が重なって輝いてみえて一瞬見惚れたなんて言わないけれど。
「……っ、するなら早くしろ!」
「いいのかよ…」
「お前がそーゆー雰囲気を作ったんだろ!?今さら聞くな!!」
そう言った途端、和泉の顔に影が射しかかった。
やけに真剣な表情をした品川が、彼のほんのり赤く染まった頬に手を添える。
「覚悟決めろよ」その言葉のとおり、和泉はごくりと喉を鳴らし、目を閉じた。
品川はというと、好きなやつが目の前にいるこの状況と夏祭りに浴衣、誰もいないであろう境内の裏。
いつか姉の部屋にこっそり入って、こっそり見た少女漫画のワンシーンを思い出した。
真一文字に結ばれた口唇を親指で撫でて、ゆっくりとキスをしようとした─────
が
「品川くんんんんん!!和泉くんんんんん!!」
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