NOVEL1

□虚空に消えた想い
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「御幸?」

「…っ?!」

「なんだ、寝てたんじゃねーのか」


つまんないのー。寝てたんなら悪戯書きでもしてやったのに!と口を尖らせた沢村が、目の前いっぱいにいた。
相変わらずあの目は健在だった。
息をヒュ、と飲んだ瞬間に離れていく沢村。微かに太陽の香りがしたような気がした。


周りを見渡せばそこは部室だった。
外からは各自で自主練習をしているのだろう金属バッドのよく響く音と、部員たちの威勢のいい掛け声が聞こえた。

俺たちのほかには誰もいないのだ。



「あー…。俺、もしかして呆けてた?」

「おう!」


時計で確認すれば、もうあと5分で部活開始。

そうか。6限が早く終わったから部室でスコアでも見てようとしたんだ。そしたら急にあのときのことを思い出して。

はは、だっせー…



「そういえば倉持先輩は?一緒じゃないんすか?」

「5限んときに爆睡して、放課後職員室に呼び出しされた。あとで哲さんに言わなきゃな」

「ふーん。倉持先輩って意外と真面目そうなのにな」


ご愁傷様、倉持。
きっと哲さんから礼ちゃんに伝わって、監督にいくだろうよ。そしてそこから先はなんとなく目に見える。

そもそも夜中までゲームしてるから悪いんだ。

なんてくだらないことを言っている間も、脳の中では『沢村』のことばかり。

とりあえず制服から着替えようとロッカーに向かう。

それは沢村も同じで、シュルとネクタイを緩めて取った。同時にワイシャツの襟元がはだけ、艶かしい鎖骨があらわになった。

コイツの一挙一動は心臓だけでなく、むしろ体全体に悪い。


俺は紛れもないオトコで、思春期真っ盛りの高校生だ。
それなりの性欲はある。好きなヤツを抱きたいと思うのは当然だろ。

横目で、アンダーを着ようとする彼を確認する。


(っ!?)


その肩口に強制的に目がいった。




紅い、紅い、痕跡。




丁度、つけられた本人からは確認できない位置に咲いていて、沢村は気付かずにアンダーをすっぽりかぶった。

情事を思わせるそれ。
確かにそのときにつけられたのは真実。

しかし、俺にはこう見えていた。




牽制、だと。





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